個人的な映画・ドラマ日記です。
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画像はすべてイメージ画像です。実際の映像とは関係ありません。
作品情報
タイトル:きさらぎ駅
監督:永江二朗
脚本:宮本武史
公開:2022年6月3日
配給:イオンエンターテイメント/ナカチカ
上映時間:82分
ジャンル:ホラー,ミステリー,サスペンス
評価:★★★☆☆
※出演者は「登場人物」を参照
登場人物(出演者)
都市伝説「きさらぎ駅」
「きさらぎ駅」は日本のインターネット掲示板「2ちゃんねる」発祥の都市伝説。
2004年1月8日深夜、「はすみ」と名乗る女性が怪奇体験の相談を投稿したことから始まる。
新浜松駅から乗車した遠州鉄道の電車の様子がいつもと異なり、到着した駅が「きさらぎ駅」という名称の見知らぬ無人駅だったというもの。
翌日未明にかけてリアルタイム実況されていたが、通りかかった車に乗せてもらい、車内からの投稿を最後に消息不明となった。
「きさらぎ駅」は一般のネットユーザーにも広く知られるようになり、類似体験の投稿や目撃談などが相次いだ。
「きさらぎ駅」を題材とした小説や漫画などフィクション作品も多く見られる。
2011年には、オリジナル投稿者「はすみ」を名乗る人物から真偽不明の生還報告も投稿され、話題となった。
さらに2018年に投稿された体験談では、異界の車掌や住民の善意により無事生還したとの報告もあり、ネット上では様々な空想的考察が語られている。
舞台となった遠州鉄道では2018年・2021年に「きさらぎ駅」を扱った漫画・アニメ作品『裏世界ピクニック』のPR列車を運行するタイアップ企画を実施。
また2022年には「きさらぎ駅」行きのレプリカ切符をセットにした記念乗車券を発売し、開始1時間余りで完売している。
日本国外では、特に台湾や香港で日本を代表する都市伝説として知られている。
あらすじ
民俗学を専攻する大学生の堤春奈は、卒業論文のテーマとして都市伝説「きさらぎ駅」を取り上げることにした。
原点となった投稿者「はすみ」ではないかとされる女性、葉山純子を探し当て、交渉の末、取材するため葉山家を訪れた。
高校教師だった純子は、新浜松駅から終電に乗車したが、気がつくと辺りは昼間。遠州鉄道にはないはずのトンネルを通過し、見知らぬ場所を走っていた。
やがて電車は「きさらぎ駅」という駅で停車する。
降車したのは純子のほか、岸翔太、松井美紀、飯田大輔という若者グループ、酔っ払ったサラリーマン花村貴史、そして純子の高校の3年生だという宮崎明日香の6名。
若者グループが駅を出て、付近の民家を捜索するも無人。
大輔が怪異に襲われ、駅に戻った翔太と美紀は線路沿いに徒歩で脱出しようとする。
純子と明日香も同行し、遅れて花村も合流したが、怪異は止まない。
最後まで純子と明日香は協力し合い、脱出の方法を探るが、元の世界に戻ってこられたのは純子だけだった。
明日香は未だ見つからず、彼女を犠牲にしたことを悔やむ純子。
春奈は純子の話を聞くうちに、掲示板に書き込まれた「エレベーターを用いて異世界に行く方法」を思い出し、「きさらぎ駅」にたどり着く手順のようなものがあるのではないかと気がつく。
あらすじ続き
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日も暮れて葉山家を辞した春奈は、純子の話した通りの手順を踏むことで、「きさらぎ駅」に辿り着く。
一緒に降りた5人は、純子の時と同じだが、記憶がリセットされているようだった。
春奈は純子の話を基にメンバーを導き、脱出を試みる。
前回とは違う経緯を経て、春奈と明日香が残るが、出現した「光の扉」を目にして迷った春奈は、純子の話に従って自分が助かろうとしてしまう。
だが実際に元の世界に戻ってこられたのは明日香の方で、そこには純子が迎えに来ていた。
後日。
春奈と話していた時には、化粧気がなく地味だった純子が、口紅を引き、別人のような笑みを浮かべて、春奈に関する調査書をゴミ箱に放り込み、壁に貼られたメモや切り抜きを剥がしていた。
スタッフロールが流れた後。
純子と同居している姪の葉山凛が、新浜松駅から電車に乗り込む。
凛は春奈と純子の会話を立ち聞きし、同じ手順で「きさらぎ駅」に行こうとしていた。
半信半疑、面白半分の凛だったが、目ざめると周囲は明るく、電車内には他の4人とともに座って意識を失っている春奈に遭遇するのだった。
感想
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映画として面白い
都市伝説に興味がなく、「きさらぎ駅」という言葉だけ何となく知っている程度だったが、特に知識は必要なく、映画として楽しめた。
臨場感はあるが、登場人物視点でのカメラワークが多く、酔いやすい人にはお勧めしない。
元々が都市伝説なので、合理性はない。
「きさらぎ駅」とは何ぞやという説明も、怪異や異世界の住人に対する種明かしもなし。
それどころか脱出メンバーの素性すら、最小限もしくは明かされない。
登場人物が真実に迫ろうとする場面もなく(怪異に襲われ、それどころではない)、ただただ振り回されながら脱出や生還を目指している。
それがいい。
脱出グループ内での人間関係に重きを置かず、あっさりめに描かれているのも、個人的には好印象。
「頭も悪く行動力も漢気もない癖にリーダーシップを取りたがり、何かにつけて暴力に訴える(そして大体1番目か2番目に犠牲になる)男」とか、「怖がって悲鳴を上げてばかりで、建設的な意見も出さずグループに貢献もしないのに、自分だけは助かりたい女」とか、ホラー映画やパニック映画には必ず出てくる役割は割り振られているが、翔太以外は悪人ではなく、アクも強くない。
多少の揉め事や、観ていてじれったくなるほどの危機感のなさによる足止め、などはあるが、余計な対立や恋愛要素は出てこない。
「夜になって焚き火を囲みながら、各々が身の上話をして親交を深め、視聴者も人物像を知る」的なシーンも一切ない。
スピード感ある展開、そして純子回と春奈回とでの違い。
2度めの春奈回は、まったく違うものにした方がいいと思う人もいるかもしれないが、私はあえて同じの方がよいと感じた。
箱は同じで、前知識のある春奈により、犠牲者や状況が少しずつ変わる、というのが面白かった。
映像や音楽
素人目にも、あまり製作費がかかっているようには見えない(実際の製作費は、調べてみたが出てこなかった)。
映像にそれっぽい加工はされており、雰囲気は出ているものの、特殊メイクやVFXは少々安っぽい。劇場で観るにはいろいろと足りていない感がある。
本格ホラーを期待していると拍子抜けするが、明らかに作り物と判るので、あまりグロテスクではなく、展開も大体の予測がつくため、あまり怖くはない。
「怖がりだけど怖いのが好きな人」にはちょうどいいチープさかもしれない。
だが、電車が異世界に入ったところで、設定は無人の筈の場所に写り込んだ、走る車や畑の人などをそのままにしておくのは手抜きと言わざるを得ない。
この手のホラーで絶対にやってはいけないのが、世界観を壊すことだと思う。
公開は2022年6月。素人でもそれなりに不要な部分を削除できる時代に、なぜ車窓に見える畑仕事をしている人を放置したのか。理解に苦しむ。
劇中音楽や効果音はあまり記憶に残っていないが、怪異が起こる合図として和太鼓が鳴り響くのが、個人的にはツボだった。
エンドロールに流れる主題歌も、作品の雰囲気に合っていてよかった。歌っているアーティストは存じ上げなかったが、作詞、作曲、編曲を行う2001年生まれの弌誠(いっせい)という方らしい。
春奈は悪くない
事前に話を聞いていた春奈が、他のメンバーが躊躇する中、一同を引っ張り、ガンガン怪異に立ち向かうところはスッキリする。
特に、4人しか乗せられないと言い張る異世界住人を、「だったらお前が外れろ」と言わんばかりに、問答無用で岩で殴りつけ、唖然とするメンバーに「あれだから!」と繰り返すシーンは面白かった。
春奈にしても、明確な攻略法を知っているわけではないので、自分だけ助かろうとしても無理はないと思うが、全員で脱出しようと奮闘するところには好感が持てた。
ギリギリのところで自分が助かろうとしてしまうのは当然で、何も知らずに結果的に純子を助けた明日香とはわけが違う。
取り残されて叫ぶ姿には、とても「自分から行ったんでしょ?」と自己責任論を持ち出す気にはなれなかった。
どうやら誰かが脱出すると、他の人間は記憶ごとリセットされるようなので、アドバンテージはなくなってしまうが、春奈の精神状態を考えれば、その方がよいかもしれない。
次は春奈が脱出できるかもしれないという希望も持てる。
複数人の脱出は可能?
登場人物から語られる前提は、生還できるのは「光の扉」を最初に抜けた1人だけということだったが、「きさらぎ駅」に送りこまれた中にはグループもいる。
入ることができるなら、出ることもできると考えられるのでは?
実際には異世界住人に襲われるので、純子と明日香、または春奈と明日香の2人が同時に扉を抜けることはできなかったが、もし手を繋いで抜けていたら、2人とも生還できたのだろうか。
2人とも異世界でリセットされるのだろうか。
それともビデオ判定のように、僅差で選別されて、やはり1人だけが脱出させられるのだろうか。
「扉を「同時に」(=みんなが「最初に」)抜けた者が脱出できる」という理屈でいくなら、2人と言わず複数人でも可能な筈だから、残った春奈にはぜひとも試してほしいところ。
本当のゲスは
本作のキモは、何と言っても純子による大どんでん返し。
大学生の研究に微力ながら協力する悲劇の女性が、まさかの黒幕。
春奈は自分が調べて純子にたどり着いたと思っているようだが、実は純子の方が腹黒い思惑を抱き、綿密に計画を立てて春奈をおびき寄せていた。
映画としては間違っていない。
ただ胸糞すぎて、個人的には評価に影響するほど嫌だった。
純子の明日香を救いたいという気持ちは理解できるが、他人(=春奈)を騙して生贄にし、他人(=明日香)を救う。そんなに明日香に負い目があるなら、自分で行けよと思う。
春奈に恨みがあるわけでもなし、春奈自身も決して悪人ではない。
そんな相手に嘘を教えて、よく送り込む気になるものだ。
しかも純子は元高校教師。当時の教え子と、さほど年齢も変わらない女の子を犠牲にして、何とも思っていなさそうな純子が、いちばんのホラーだった。
本当のラストシーン
春奈の調査書を処分する純子の姿がラストシーンかと思いきや、実は本当のラストはスタッフロールの後に挿入されている。
私は知らずに、スタッフロールの途中で止めていたが、後日気がついて驚愕した。
春奈と純子が面談している部屋の外で、純子の姪である凛が、何やら楽しげにほくそ笑んでいたのが、意味深で気になっていたのだが、こういうことだったのかと得心がいった。
凛は友人とジャンケンをして勝ち、1人で乗車したが、この友人は後で心底「乗らなくてよかった」と思っただろう。
映画館でも、エンドロールが流れ始めた途端に、余韻に浸る他の観客に配慮せず、さっさと出てしまう人がいる。
「エンドロール見ない派」を否定はしないが、「見る派」の目の前を無遠慮に横切ったり、声を潜めずに会話したりと、あまりマナーのよくない人も多い。
もしかしたら、そういう人に対する製作側のアンチテーゼだったりして?と思うほど、観ると観ないとでは印象が変わってくるラストだった。
ちなみに凛を演じた瀧七海という女優さんに見覚えがあったが、2023年10月放送開始の日本テレビ系の深夜ドラマ『ブラックファミリア〜新堂家の復讐〜』に出演されていた。
画面で見慣れた人が、他でも活躍しているのを見るのは嬉しい。