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夜を越える旅

映画・ドラマ日記
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個人的な映画・ドラマ日記です。
「ジャンル」は鑑賞媒体によるもの、もしくは独断により分類しました。
「評価」は自分のお気に入り度です。
ネタバレを含む箇所は非表示にしています。ご了承の上「▶こちらをクリック」をクリックまたはタップしてお読みください。
画像は一部を除きイメージ画像です。実際の映像とは関係ありません。

作品情報

タイトル:夜を越える旅
監督:萱野孝幸
脚本:萱野孝幸
製作:相川満寿美
公開:2022年10月21日
配給:アルファープロデュース/クロックワークス
上映時間:81分
ジャンル:ホラー,サスペンス,オカルト,ファンタジー
評価:★★☆☆☆
※出演者は「登場人物」を参照

登場人物(出演者)

主人公

春利(髙橋 佳成)
大学卒業後、アルバイトをしながら漫画家を目指している。

元恋人?

小夜(中村 祐美子)
大学時代のゼミ仲間の1人。

学生時代のゼミ仲間(クレジット順)

ケント(青山 貴史)
オカルト雑誌の編集者。

ユリ(AYAKA)
ツツダ(桜木 洋平)
サトミ(井崎 藍子)

その他

エツコ(時松 愛里)
春利の現在の恋人。
アルバイト先で知り合い同棲している。

イツキ(長谷川 テツ)/ナオコ(あやんぬ)
ケントの知り合いの霊能者カップル。

スダギンコ(青木 あつこ)
イツキらに紹介された霊能者。

あらすじ

漫画家志望の春利は大学卒業後も夢を諦められず、アルバイトで食いつなぎながら漫画を描いているが、実態は同棲中の恋人エツコの半ばヒモ。

大学時代のゼミ仲間との小旅行もエツコから金を借り、嫌味を言われながらの参加だった。
男性3人、女性2人というメンバーで和気あいあいと宿までドライブ。
ジャンケンに弱い春利は、結局ずっと運転手をさせられていた。

自然に囲まれたコテージに到着し盛り上がる中、春利はエツコからの電話で応募していた漫画賞の落選を知らされ、思わずエツコに八つ当たりをしてしまう。
仲間たちに気づかわれるも落胆する春利。

夜も更けた頃、コテージに小夜が到着。
小夜とケントはテラスで楽しげに話し込み、そんな2人を春利は複雑な思いで眺めた。
その後、春利と小夜は散歩しながら2人きりで話をしたが、小夜はみなが起きる前に帰るという。
夜明けの駅に小夜を送っていくと、小夜から「自分のところに来ればいい。漫画はどこにいても描ける」と誘われた。逡巡の末、「やっぱ俺も行くわ」と約束する春利。

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あらすじ続き

以下はネタバレを含みます。ご了承の上、▶をクリックまたはタップしてください。

こちらをクリック

目ざめた春利は、小夜が3年前に自殺していたことを思い出す。
あれは夢だったのかとぼんやりしている背後から現れた何かに掴まれ、別世界に引きずり込まれた。

現れた小夜がグロテスクな姿で迫り、恐怖のあまり突き飛ばした春利に「春利が来ないのなら、代わりにケントを差し出すように」「今夜、日付が変わるまでに」と言い渡した。

現実世界に戻った春利は、迷いつつもケントを転落死させようと試みるが失敗。
実はケントも同じく小夜に誘われる夢を見ており、彼は断っていた。
仲間と別れた後、ケントのつてでイツキ、ナオコという霊能者カップルに相談すると除霊は断られたが、高名な霊能者スダギンコを紹介してもらった。
スダギンコは助手らとともに除霊に臨んだが失敗。助手は死亡。スダギンコも倒れ、春利とケントはほうほうの体で逃げ出した。

結局ジャンケンで決めることになったが、春利はケントに勝ちを譲り、車内で遺書を書き始める。
夢中で書き終え、現れた警察官に時間を訊くと既に日付は変わっていた。
霊能者カップルに「一瞬でも完全に忘れ去る」と示された唯一の解決方法を、遺書に集中することで実現させたからかもしれなかった。

暗転後、エツコと暮らしていた部屋で春利は机に向かい、憑かれたように何かを描いている。
部屋には小夜の線画が所狭しと並べられていた。

作品背景

埼玉県川口市・SKIP シティ/Ebiebi2 Wikipedia

本作はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021で「優秀作品賞」と「観客賞」をダブル受賞。
またアジア最大級の映画祭「東京国際映画祭」において正式上映された。

福岡県を中心に映像制作を行なう萱野 孝幸(かやの たかゆき)が脚本、監督、編集を手がけ、九州出身の俳優を積極的に起用。撮影は主に福岡県と佐賀県で行われた。

SKIPシティとは次世代映像産業の発展と集積、映像クリエーターの発掘と育成を目指し、2003年2月に埼玉県川口市に創設された施設である。
SKIPは「Saitama Kawaguchi Intelligent Park」の頭文字から。
2004年より毎年開催されている「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画製作者の登竜門ともなっている。

あず
あず

萱野 孝幸さんは1990年9月生まれの34歳(2024年現在)
大分県出身、九州大学芸術工学部を卒業後、福岡県在住の映画監督・脚本家です

感想

春利について

主人公の春利は、女性に暴力を振るうような積極的なクズではないが、同棲相手に金をせびる、それも相手が手のひらに札を載せてくれるのをグズグズと待っている消極的なクズである。

漫画で食えない以前に漫画家にすらなれていないのに、バイトを増やすこともしない。
それでいて漫画家ヅラはしたいのか、エツコに釘を刺されたにも関わらずゼミ仲間との一泊旅行に原稿を持っていく。
自意識過剰で観ているこっちが恥ずかしくなる。
更に、せっかくケントが仕事を回そうとしてくれたのに、可能性の低すぎる漫画賞を持ち出して断る。

…ねぇ、アホなの? 贅沢言ってられる身分なの? コネもできるしいい仕事じゃん引き受けろよ。

ほんっと、こういう男って嫌い。
才能もなく努力もせず、言いたいこともはっきり言わないで卑屈に笑ってる癖に、プライドだけは一人前以上に高くて、裏ではSNSとかではっちゃけていそう。

バイトの仕事もできなさそうなのに、エツコも何でこんな男に引っかかっちゃったかなぁ。
最初だけは「大卒で知的で夢追い人なロマンチスト」っぽくて騙されちゃったのかなぁ。

仲間との小旅行中に、選考結果が出たことをわざわざ電話してくるエツコも何だかなとは思ったが、かけ直して「やっぱり教えて」と自分から聞きたがった癖に、八つ当たりする春利に「いや気持ちは分かる!分かるけどみっともなさすぎる!」と共感性羞恥の極みだった。

のりまき
のりまき

春利を演じた髙橋 佳成さんは、萱野監督の映画4作にすべて出演されてます

あず
あず

作中では陰キャっぽい春利にぴったりな感じだったけど、実際はモデルもされてる華やかな美形だったよ

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小夜について

演じた女優さんはくっきりした大きな目が印象的で、夢の世界の両目が潰れた(?)姿との対比がすごかった。
ただ春利の元カノというには外見のレベルや雰囲気が違いすぎ、本当につき合っていたかどうかは疑わしい。むしろケントの方がお似合いだった。

美人で明るくて気さく、頭も人柄もよさそうな小夜は、どこに行っても上澄みの人生を送れるだろうし、困った時に手を差しのべてくれる存在にも事欠かないだろう。
それが「3年前に自殺」とは?
少し繊細そうではあるが、少なくとも自死からは程遠い人物であるように見受けられたことも相まって、かなり不自然に感じられた。
また自死に至る理由は一切明かされず、それらしい匂わせもなかったので釈然としなかった。

車はどうした

そもそも辻褄の合わないできごとや突拍子もない登場人物が現れるので、今さら車を気にするのもどうかと思うが。

終盤、春利とケントが何とかしようと霊能者たちを訪ね歩く際、乗っていた自動車は確かケントのものだった筈なのだが、後出しジャンケンで勝ったケントは怯えた目を春利に向けつつ、こけつまろびつ闇に逃げ去る。
「え?ここでケント退場!?」と豆鉄砲を食らいつつ、「でも自分の車は絶対に乗っていくよなぁ」と首を傾げた。

「春利が夢中で遺書を書くため」に、制作陣が車を残す選択をしたのならイマイチと言わざるを得ないが、次項で触れる設定(第2案または第3案)であれば、妥当と言えなくもない。

あず
あず

醜い押しつけ合いが起こるのかと思ったら、2人とも意外と冷静というか常識人…

のりまき
のりまき

でもケントは小夜に対してちゃんと断ったんだし本来は無関係よね

「不条理ファンタジー」

全編を通して、個人的にはよく分からなかった。
何というか、ぶっ飛んだ創作フレンチを食べさせられて結構な金額を取られたが、コンセプトも食材も調理法もよく分からないがゆえに「高いんだか安いんだか美味いんだか不味いんだか」判断がつかない感じである。

特に暗転後のシーンは不可解だった。
あれがなければ「あぁ…まぁ…80分だし…途中めっちゃ怖かったし…」で終わっていた。

あのシーンは、最初は単なる後日談的なものと捉えていた。
とんでもないオカルトトラブルに見舞われ、いったんは助かったものの精神に異常をきたした春利が、常人の生活が立ちゆかなくなりエツコも去った部屋で、ひたすら小夜を描いているという、一連のできごとを「現実」とする第1案である。

ただ部屋が映し出された直後、春利は床に横になった姿勢から飛び起きている。…何のために?
そして私の脳裏に浮かんだ「不条理ファンタジー」という意味深な言葉。

宿に向かう車中で、描いている漫画のジャンルを仲間に訊かれた春利は、はにかみながら「不条理ファンタジー…かな」と答えている。
そこから導き出されるのは、全篇がすべて春利の脳内で組み立てられた妄想または物語、いわば「作品」であるとする第2案。
つまりエツコもゼミ仲間との小旅行も実際には存在しない。

厳密に言えば、第1案と第2案を微妙にミックスした第3案も考えられる。
暗転するまでは曲がりなりにも現実で、それが元でおかしくなった春利がその時のことを夢に見ては飛び起き、作品として残そうと描き続けている春利の「記憶」というもの。

春利の創作や記憶であれば、作中の疑問点もノイズとして片づけられる。
まぁ一次選考で落ちる程度のワナビーだしな…小夜と散歩している時に突如変なことを呟く変なおじさんくらい当たり前に出してくるし、ケントが車を放置して逃げもするわな。
いずれにせよ家賃はどうしてるのかしらん。

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評価は分かれるかも

このタイプの作品は評価が真っ二つに分かれることが多い。
本作も各映画サイトなどの総合評価は星2~3だが、評価を入れた殆どの人が2か3にしたためではない。各星のパーセンテージに偏りがなく、5(最高評価)と1(最低評価)もそれぞれ多いために、2~3という本当の意味での平均値になっている。

映画祭での受賞に加え、YouTubeやX(旧Twitter)でも紹介されており、高く評価する視聴者が一定数存在することは分かるが、個人的には好みの映画ではなかった。
『夜を越える旅』というタイトルも、内容に対して詩的すぎ、大仰すぎてアンバランスな印象を受ける。
話題作というよりは意欲作であると感じた。

好みだけで評価すると★1だが、思わず愛犬が飛び起きるほどの悲鳴が出た折り返し地点での無音のジャンプスケア(?)は秀逸。
好き嫌いは別にして、春利の人物描写もよくできていると思う。
春利が引きずり込まれた別世界の、ダークワンダーランドといった感じの雰囲気もよかった。
これらの長所から星を1つ上げておいた。

また赤紫と青のグラデーションが現れる公式サイトは、情報量はそれほどでもないがメインビジュアルが好みだった。

普通に観るとホラー要素が薄く、よく分からない演出も多く、謎解きのためのヒントもあまり示されていないようなので、「何だこりゃ」になりかねない。公式サイトの謳い文句「おぞましくも切ない、モラトリアム奇譚」とは到底思われない。
映画やオカルトに造詣が深く、あれこれと考察&妄想して自分なりの解釈を見つけるのが好きな人、またインディーズ系に光る原石を見出すのが好きな人にとっては、鑑賞に耐えうるレベルに仕上がっている作品ではなかろうか(エラそうにすみません…)。

あず
あず

時間も短いので、観てもいいとは思う

のりまき
のりまき

最初のへんは「何だよコレ」って思ってたけど、まあ驚かされてみてって感じ

あず
あず

他の人がどんな感想を持つのか興味はあるよね