PR

『両刃の斧』

映画・ドラマ日記
この記事は約9分で読めます。
Sponsored Links

個人的な映画・ドラマ日記です。
「ジャンル」は鑑賞媒体によるもの、もしくは独断により分類しました。
「評価」は自分のお気に入り度です。
ネタバレを含む箇所は非表示にしています。ご了承の上「▶こちらをクリック」をクリックまたはタップしてお読みください。
画像はすべてイメージ画像です。実際の映像とは関係ありません。

作品情報

タイトル:両刃の斧
監督:森 義隆
脚本:鈴木 謙一
製作:WOWOW
公開:2022年11月13日-12月18日
配信:WOWOWプライム WOWOWオンデマンド等
放送時間:全6回
ジャンル:サスペンス, ミステリ,警察
評価:★★★★☆
※出演者は「登場人物」を参照

登場人物(出演者)

川澄家

川澄 成克(井浦 新)
捜査一課強行犯係谷口班 刑事。

川澄 多映子(高岡 早紀)
成克の妻。

川澄 日葵(奈緒)
成克の一人娘。所轄の警察官。

柴崎家

柴崎 佐千夫(柴田 恭兵)
元神奈川県警捜査一課 刑事。

柴崎 三輪子(風吹ジュン)
佐千夫の妻。病で入退院を繰り返している。

柴崎 曜子(見上 愛)
佐千夫の長女。保育士。
15年前、自宅アパートで何者かに殺害される。享年23。

柴崎 和可菜(長澤 樹)
佐千夫の次女。
曜子の死後、白血病で死亡。享年17。

警察関係

山田 太士(坂東 龍汰)
日葵の婚約者。県警本部 巡査部長。

梶野 彬(波岡 一喜)
県警捜査一課専従捜査班 班長。
川澄の同期であり柴崎の元部下。

沢木 美織(高橋メアリージュン)
県警捜査一課専従捜査班 刑事。科捜研出身。
川澄とともに過去の事件を追う。

青山 陽太(宇野 祥平)
見花山駅前交番 警察官。

白井 哲史(ルー大柴)
元県警捜査一課長。青山の伯父。

事件関係

森下 竜馬(黒田 大輔)
元警察官。自動車部品工場 派遣社員。

Sponsored Links

あらすじ

15年前、県警捜査一課の刑事・柴崎(柴田恭兵)の長女・曜子が、一人暮らしをしていた自宅アパートにおいて刺殺体で発見された。柴崎は家族ぐるみで親しい部下の川澄(井浦新)とともに事件を追うが、迷宮入りとなった。
15年後、退職した柴崎は闘病中の妻を支えながら静かに余生を過ごしていたが、未解決事件の再捜査を専門とする専従捜査班が立ち上がったことで事態は動き始める。

当時、現場に駆けつけた交番勤務の青山が、事件について何か隠していると川澄は確信したが、事情を聞く前に青山は拳銃自殺を図った。だが遺書には森下という元警察官の名が記されており、川澄は専従捜査班の一員である科捜研出身の沢木(高橋メアリージュン)とともに森下について調べ始める。

森下は鑑識時代に培った手法で、成功した同級生の弱みを握り脅迫したり、女性をストーキングした挙句死なせたりとやりたい放題だったが、なぜか立件はされなかった。
森下を曜子の殺害容疑で逮捕する直前、森下は刺殺され、森下と会っていた柴崎に容疑が向けられる。死亡推定時刻前後に柴崎からかかってきた不可解な電話のことが気になる川澄。
妻子とともに柴崎家を訪れたが、柴崎は行方不明、妻の三輪子(風吹ジュン)は入院中だった。

Sponsored Links

あらすじ続き

以下はネタバレを含みます。ご了承の上、▶をクリックまたはタップしてください。

こちらをクリック

森下に弱みを握られていたせいで、甥の青山に命じて事件の重要証言をもみ消した元県警捜査一課長の白井(ルー大柴)が、逃亡中の柴崎に襲われる。
川澄は殺人未遂容疑で現行犯逮捕したが、柴崎は完全黙秘。事態を打開するため取調官を任された川澄にも、ひと言も口を利かない。

専従捜査班の班長・梶野(波岡一喜)は川澄の同期であり、柴崎が曜子の遺体と対面した際にも川澄とともにその場にいたが、川澄と沢木は、梶野と曜子が当時、年齢差を気にして秘密裡に交際していた事実をつかみ、柴崎による森下殺害の共犯者として梶野を疑う。
梶野は殺人には関与しておらず、だが既に退職した柴崎に情報を提供していたことを認める。

一方、黙秘を続ける柴崎にしびれを切らした県警本部は、状況証拠のみで送検する方針を固めた。時間が残されていない中、死期を悟った三輪子が「あの人は犯人じゃない」と言い出し、病室で真相を語った。それは川澄がたどり着いた真実でもあった。

事件当夜、元気のない姉を心配して、曜子のアパートを訪れた次女の和可菜は、いたずら心から隠れて曜子の帰宅を待っていたが、自身のストーカーではと警戒した曜子が持ち出した包丁で、曜子の頸動脈を掻き切ってしまう。
曜子に「誰にも言っちゃだめ」と言われた和可菜は姉との約束を守ったが、白血病に侵され死を覚悟した時に、母親の三輪子にだけ真実を告げていた。

森下は曜子のストーカーで殺人には無関係だったが、曜子のアパートに盗聴器を仕掛けており、そのため事件に関わらせたくなかった白井が手を回した。
日葵(奈緒)の婚約者、山田(坂東龍汰)も、母親がかつて森下のストーキングに遭っており、腹を立てた森下に山田の目の前で轢き殺されたが、白井のせいで殺人罪に問われなかったという過去があった。

三輪子のために沈黙を貫いていた柴崎だったが、森下殺害のナイフが発見され、もみ合いの末の正当防衛だったことが認められた。
白井の件は起訴猶予となり、1年後、穏やかな表情で日葵と山田の結婚を祝う柴崎の姿があった。

感想

「恭サマ」圧勝!?

『MOZU』シリーズでしてやられて以来、敬遠しがちだったが近頃のWOWOWは面白い。
さらに主演が柴田恭兵と井浦新の刑事ドラマとくればハズレはないに決まっている。
「でも悪いけど昔からタカ派(『あぶない刑事』の舘ひろし)なのよねぇ」などと軽い気持ちで観始めたが、ユージのイメージが完全に払拭されるほどの重厚な演技に引き込まれた。
2025年4月現在73歳とのことだが、衣装越しだが肉体はほどよく鍛えられているように見受けられ、滑舌も非常によい。うっすらと色気すら感じられると、同性の相方も唸っていた。
「圧倒的な存在感」という言葉がぴったりくるが、柴田恭兵だけが目立つというわけではない。他の出演者も実力派揃いで、違和感につまずくことなく視聴できた。

柴田恭兵であって柴田恭兵ではないというか、お顔や声は確かに柴田恭兵なのに、序盤から柴崎にしか見えなくなっていた。
柴田恭兵に対して「こんなお父さんがほしい」と思ったことはないが、柴崎にはそう思った。うまく言い表せないが、柴田恭兵が演じる柴崎だからこそという気がする。
今まで柴田恭兵の出演作は、好みもあってあまり観ていないが、他の作品も探してみようかと思っている。

ラクダ男の怪演

柴田恭兵と双璧をなすのがラクダ男こと森下を演じる黒田大輔。本作では下劣で嫌らしい森下を信じられないほどのクオリティで魅せてくれる。
あの身震いするほど気持ちの悪いニタア~と笑う顔は、ものすごく腹が立つ一方で、よくぞここまでと感心もしきり。ご本人自身がそういう変態なのではと勘繰るほどだった。

多くの出演があり、特に沖田修一や是枝裕和作品への出演が多い。
映画は2017年『22年目の告白-私が殺人犯です-』、2018年『万引き家族』、2021年『護られなかった者たちへ』など。ドラマは2010年『ゲゲゲの女房』、2024年『アンメット ある脳外科医の日記』など。
『両刃の斧』の後に観た『22年目の告白』では、衣装や小道具のせいで確信はないが、仲村トオルに密着するヘタレめの編集者で出演してらしたと思う。

公式サイトで拝見したプロフィール写真には、善良な父親が被害者遺族となる役が似合いそうな1枚があった。悲嘆に暮れるだけでも、復讐の鬼と化すでもいい。この方ならどんな役でも演じ切ってくれるだろう。
個人的にはラクダ男を超えるクソ変態(ほめ言葉)をどこかで演じてくださらないかと期待している。

Sponsored Links

華を添える女性陣

柴崎の長女が事件被害者ということもあるが、警察小説が原作であるわりには女性の登場人物が多いように感じた。
柴崎の妻・三輪子(風吹ジュン)、川澄の妻・多映子(高岡早紀)、川澄の娘・日葵(奈緒)という変則母娘3代が、それぞれにいい味を出している。特に高岡早紀が演じるあっけらかんとしたしっかり者のパート主婦・多映子が、陰鬱な作品の清涼剤となっていた。
そこへ警察側からはクールビューティ高橋メアリージュンが加わるが、必要以上に女性に焦点が当てられることも、彼女たちの物語が語られることもなく、程よいバランスだったと思う。

取り調べはやや単調

柴崎と家族ぐるみで親しい川澄が、取り調べを行う場面が何度かあったが、毎回だんまり&無反応の柴崎に対して川澄が激する、の繰り返し。
百戦錬磨の元刑事が強い意志で喋らないのだから、何を言っても無駄だとは思わないのかと、必要であろうシーンながら途中で飽きがきてしまった。

謎解きはやや複雑

15年前の柴崎の長女の事件に、リアルタイムの森下の事件、柴崎の緘黙の謎などが絡み、警察小説や映画に慣れていなければ少々こんがらがるかもしれない。
さらに思わせぶりな三輪子、振り回される川澄、序盤から何やら存在感を出す梶野、日葵の婚約者というだけではなさそうな山田、と登場人物も複雑に絡んでくる。それぞれが裏がありそう感満載で、謎解きは面白かった。

Sponsored Links

元凶は三輪子

15年前の事件の真相に関しては「そんな事故ってあり得る!?」という向きもあるかもしれないが、まったく予想もしていないところでやらかすことも実際にあるので、そこはいい。

だがこんなに大事なことを、母娘そろって黙っている、黙っていられるってありなの?とは思った。特に次女はまだ中高生なわけで、一人で抱え込むことができるとは思えない。家族仲もよいのだし、母親には打ちあけるよな、と。
それに三輪子も普通の主婦。そんな大それた秘密には耐えきれないだろうし、まず娘の様子がおかしいと気がつく筈だと、その点は違和感を持った。

2人の娘を相次いで亡くした柴崎に、これ以上心労をかけたくないという三輪子の気持ちも解らなくはないが、必死に貼り紙をしたりチラシを配ったりしている夫をどういう思いで見ていたのだろう。まさかそれが生き甲斐だろうから奪いたくないとでも?

三輪子が話をしていれば、少なくとも現在の諸々は起こらなかったのだから、まあ罪深い。
どっちがよかったかは分からないが、でも、三輪子の病気もストレスによるものが大きかったかもしれないし、早いうちに打ちあけて、公にはしなくても夫婦で乗り越えた方がよかったのでは、とは思う。
そうしたら日葵の結婚式くらいは二人で出席できたのではないだろうか。
妻の死に際にすべてが明らかになった柴崎が、一人で消化せざるを得なかった時間を思うとやりきれない。

『賢者の贈り物』

自分としては三輪子の選択は許し難い愚行に映ったが、「自分も三輪子と同じ対応をする」という視聴者もいるだろう。相方は三輪子寄りだった。
ふと、オー・ヘンリーの『賢者の贈り物』にどのような感想を持つかが、本作の受けとり方と似てくるのではと思った。

心温まる夫婦の絆の物語か、愚かな夫婦の寓話か。私はもちろん後者だ。
特に夫の方が愚か度は高い。
買い戻せるとも思えない経済状態で、代々受け継いだ懐中時計を売るとは考えなしだと、子供の時から思っている。しかも妻の髪は待てば無代で伸びるが、時計は質から出さねばならない。
それに、いつでも買える髪飾りのために、家族の歴史が刻まれた時計を手放すとはアホ極まれり、である。
さらに妻は自分で育てた資産である髪を犠牲にしたが、夫は自力では何も生み出していない。愛情深く優しい夫ではあるが賢くもなく頼もしくもない。
子供心に「この人何にも考えてないな」「髪飾り分くらい自分で余計に稼いでこいよ」と思ったものだ。

『両刃の斧』の場合、元凶の三輪子は天国にトンズラこき、柴崎だけが諸々の不都合や苦しみを引き受ける羽目になったように私には思えたが、あらゆる意味で男が一家の大黒柱となり、不利益はすべて背負う覚悟を持つ、古きよき時代の価値観と考えれば納得はいく。
その上で男尊女卑などなく、妻と娘たちに軽口を叩かれて苦笑いしながらも包容力に満ちた柴崎だから、理想の父親と感じたのも当然だった。
同じように互いを思いやり、すれ違った夫婦であっても、そこが『賢者の贈り物』の夫との最大の違いだろうか。