個人的な映画・ドラマ日記です。
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作品情報
タイトル:十角館の殺人
監督:内片輝
脚本:八津弘幸 早野円 藤井香織
製作:日本テレビ
公開:2024年3月22日
配信:Hulu
放送時間:全5話
ジャンル:ミステリ,サイコスリラー,クローズド・サークル
評価:★★★★☆
※出演者は「登場人物」を参照
登場人物(出演者)
あらすじ
1986年、角島に建つ青屋敷が全焼し、中村青司夫妻らが謎の死を遂げた。
その半年後、K大学ミステリ研究会のメンバー7名が合宿のため、島に残っていた十角館を訪れる。
本土ではミス研の元メンバーである江南の元に、死んだ筈の中村青司から手紙が届いていた。
好奇心から行動を起こした江南は、偶然知り合った島田とともに真相究明に乗り出す。
一方、十角館ではミス研のメンバーが殺害されるも、角島を出られるのは1週間後。
メンバーたちは疑心暗鬼に陥り、追いつめられていく。
かなり原作に忠実なので、詳細は読書日記『十角館の殺人』文庫《新装改訂版》をご参照ください。
感想
『十角館の殺人』にはコミックスもありますが、未読です(2024年7月現在)。登場人物や設定など、コミックスを基にドラマ化されている部分があった場合はご容赦ください。
キャストについて
最初に「Huluで『十角館の殺人』がドラマ化された」と知った時は、「いやぁ~実写化は当たりはずれが大きいからなぁ~」と少々腰が引けていた。
好きな作品が雑に映像化され、自分なりの世界観が壊されるのは嫌なものだ。
その後、相方が調べてくれて評判を聞き、前のめりに観ることになった。
本編を存分に楽しみたいので予告映像はもちろんビジュアルもなるべく目に入れず(関係者さんごめんなさい後で観ました)、事前情報も制限したのでキャストも知らなかった。
ミス研メンバー
「江南は神木隆之介がいいかな」と蓋を開けたら、奥智哉という知らない俳優さんだったが(本作が初主演作品だそう)、雰囲気は何となく似ていた。
ミス研のメンバーを演じた面々は20代前半から半ば辺りであり、神木隆之介は31歳とのことで納得。
昭和臭漂うお洒落とは言い難い髪型と服装だったが、所属事務所のプロフィール写真の方が素敵なので、個人的には髪型はそちらにしてほしかった。
カーについては、原作のお世辞にも美男子とは言えない、厭らしさが前面に出た風貌を期待していたので、イケメンすぎて「カーじゃない感」が強かったが、他人の神経を逆なでするカーらしさはよく出ていた。
他のミス研メンバーは、原作と多少の違いはあれどほぼ違和感がなく、特にエラリイははまり役だったと思う。
ミス研メンバー以外
ミス研以外の主要人物は少ないものの、実力派が揃った。
特に島田役の青木崇高はまさにイメージしていた通り。
直近では「殺人分析班シリーズ」の「邪神の天秤 公安分析班」を観ており、楽しみにしていた。
飄々としながら愛嬌もあり、大人としての常識も持ちつつ人の懐にすっと入る島田像に最高にはまっている。細身のジャケットもよくお似合いだった。
現在44歳ということなので、もし「館シリーズ」実写化の続編があるようなら、この方が年齢を重ねすぎないうちにサクサク制作していただきたい。
島田潔の実兄を演じたのは、あちこちでウォーリーのように見かける名バイプレイヤー、池田鉄洋。
この人が出てくると「今回池鉄!池鉄おる!」と騒ぐのがのりまき家のお約束になっている。
「象のような目をじろりと剥」く「四十過ぎの太った男」、島田修としてはぴったりだが、青木崇高の兄役としては何もかもが真逆で、それも却って面白い。
似てない兄弟と言えば、中村紅次郎役の角田晃広には驚いた。
紅次郎が出てきた瞬間、のりまき家では「ちょっ、あれ角田じゃない!?」「え!? うそ、あ、角田だ」というどよめきが起きた。
いや俳優としても活躍されているのは知っていたし、ちょくちょく見かけてもいるし、何より角田好きとしては嬉しいのだけれど、こんなシリアスな役どころで出演とは。
原作の紅次郎は渋くて洒落ており、源氏物語になぞらえて庭に藤棚を造り、兄嫁への愛に生きる孤独な人といった印象なので、野太い声で線の太い角田タイプは意外だった。
中村青司役の仲村トオルも、台詞がない上に正統派の端正な顔立ちのため、青司の異常性や変態性を示すには少々ミスマッチに感じた。
俳優の私生活と役柄は別ものとは思うが、仲村トオルといえば家族仲がよいことで有名で、ベスト・ファーザー賞も受賞しており、青司とは正反対すぎて馴染めなかった。
また紅次郎役が東京03の角田ということもあり「トオルが角田に嫉妬」という図式には「お、おぅ…」となった。
ちなみに実年齢はトオル58歳、角田50歳(2024年7月現在)と意外に離れている。
濱田マリ演じる松本邦子は、原作にはないドラマオリジナルの登場人物。
築古のレトロなアパートと、いかにもお節介そうな管理人のおばさんが対になっていい感じ。
あまり喧伝されてはいないが、個人的には原作を損ねないどころか、好もしいアクセントになっていた。
十角館の「十」
原作と同じく「十」にこだわり、カップはもちろん、トレイやランチョンマットに至るまで、きちんと十角形になっていた。
中央に置かれたテーブルも、十角館の間取りを表すように二重に十角形を描いていた。
光の射す十角形の天窓を見上げる形になったアングルは鳥肌が立つほどだった。
ただ色をはじめとする調度品の仕様が原作と異なるのは、何か意図があるのだろうか。
特に違和感はなかったが、いち原作ファンとしては、やはり十角館は原作そのままを再現してもらいたかった気もする。
十角館の間取り図に登場人物を配置したビジュアルもよかったし、地上波であればCMに入るような場面が切り替わる箇所などで、ロゴの「十」の「一」部分が伸びる演出も洒落ていた。
昭和設定
喫煙シーン
昨今は喫煙、飲酒、暴力など青少年に不適切とされる描写がカットもしくはソフトになり、地上波の連続ドラマでは喫煙などあまりお目にかかった覚えがない。
レイティングシステム(視聴の年齢制限)が、というより、それに配慮した自主規制が厳しい印象だが、そんな中で原作そのままの昭和的な喫煙シーンが随所に見られ、制作陣の心意気を感じた。
ミス研俳優さんたちは、喫煙の習慣もない人が多かったのではと思うが、手慣れた様子で煙草をふかしているのは流石だった。
聖子ちゃんカット
長濱ねる演じるアガサは、原作ではソフトソバージュのロングヘアだが、ドラマでは「聖子ちゃんカット」と呼ばれるセミロングヘアになっている。
「聖子ちゃんカット」は松田聖子が1980年のデビュー当時から1981年末までの約2年間にしていた髪型で、1980年代におけるアイドルの定番となり、一般の若い女性の間でも流行した。
2018年の日曜ドラマ『今日から俺は!!』や2024年の金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』などで出演者が聖子ちゃんカットを披露しており、再評価が高まっている。
昭和の聖子ちゃんカットは1980年代半ば辺りには下火となったようだが、地方と中央の情報格差が大きかったことを思えば、1986年にお洒落に気を遣う九州の女子学生(=アガサ)が聖子ちゃんカットであっても不思議はない。
ドラマではあまり現代風にアレンジされていないように見える聖子ちゃんカットで、令和の目では野暮ったく感じられたが似合ってもいた。綺麗な人は何でもそれなりに似合うのだろう。
個人的には「そこまで昭和臭を出さなくても…」と思ったし、長濱ねるはロングヘアの方がよいと思うので、原作に寄せてもよかったかな。
フェリ〇モの福袋
登場人物の服装ももちろん昭和チックに仕上げてあった。
ポウのお坊ちゃんぽいカウチンセーターや、ルルウのチョッキと呼びたくなるニットベスト等々。カーが着ていたワインレッドのトレーナーは、1980年代に流行ったDCブランド「PERSON’S」のもののようだ。
女性陣のコートや着こなしもレトロだが、白地にフリルの縁がピンクになったアガサのブラウスは、おばあちゃんの箪笥から「若い頃に着てたのよ~」と出てきそうな代物で、一体どこで見つけてきたのかと思った。
最初は「フリンジ咲きのチューリップみたいだな」と思っていたのだが、横から相方がぼそりと「フェリ〇モの福袋に入ってそう…」と呟いて以降は、見るたびに「フェリ〇モの福袋」が頭をよぎった。
まったく余計なひと言を…! (でも的を射ている)
それはさておき、原作で死亡した時のアガサが身につけていた白いレース地のワンピース(と床に広がった黒い長い髪)は、絶対に再現してほしかった。
赤い口紅とエラリイの「おやすみ、白雪姫」はそれでこそ生きるのに…と、こういう小姑のような原作ファンがいるから、そういう意味でも実写化は難しいのだろう。
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トリックの映像化
原作は何度か読んでいるが、視聴前の時点では、最後に手にしたのは数年前だった。
単に物覚えが悪いと言ってしまえばそうなのだが、私は読んだ本、観た映画やドラマの内容を片っ端から忘れるという特性がある。連続ドラマであれば、最終話を観るまでは時間が空いても覚えているが、観終わると途端に忘却の彼方へ。
読書談義でもしようものなら、ついていけず「ホントに読んだんだってば~」と歯噛みする羽目になりそうだが、録画保存した2時間サスペンスを何度でも新鮮に楽しめるので、今のところは特技と捉えている。
今回もその特質を発揮して、大体の筋は覚えていたが原作のトリックと犯人については思い出さないようにしたし、もちろん読み直しもしなかった。
そのため風に煽られた守須が早変わりする場面では、他の視聴者と同じく声を上げるほど驚いたが、瞬時に原作が蘇り「正攻法での見事な映像化」に感動すら覚えた。
原作では「医学生であるポウを欺く手段」であったヴァンの体調不良を、不自然に感じさせずトリックに繋げている。
加工がされていないのだとしたら、演じた俳優さんも大変だっただろうと思う。
ただ、ポマードか何かで強力にセットされたテカテカの髪が、突風にさらされただけであんなにばらけ、サラサラぼさぼさのストレートヘアに変化するのは不自然で、この場面だけ制作側の意図が強烈に透けてしまったのは惜しい。
とはいえ守須からヴァンに変貌するクライマックスなので、多少不自然であってもビフォーアフターがくっきりしている方がいいのかもしれない。
八つ当たり説に説得力
読書日記で「八つ当たり」と書いたように、原作では皆殺しに至る動機が弱かった。
恋人を仲間に「殺された」と決めつけ、事実確認もしない。
殺害方法や遺体の扱いなども比較的酷く、守須に一片の同情も共感もできなかったし、守須の人物像からも動機に説得力がなかった。この乖離が作品を損なっているとも感じていた。
だがドラマでは、守須はあくまで原作のまま仲間のせいにして突っ走るが、千織側はそうでもなかったらしいことが示唆されている。
千織が亡くなった飲み会の三次会は、原作では居酒屋だった舞台が部室に変更されている。
部室までみなと一緒に戻ったものの、そこで江南と守須が帰ると言い出す。
江南については、のちに島田にミス研を退会した理由について「クラブの気風が肌に合わなかった」のだろうと指摘されている通り、ニックネームを継承しているにもかかわらず、当時も苦手意識があったのだろうから、三次会まではつき合えないと帰宅するのも自然である。
個人的には「いや二次会までは行くんだ」「てかわざわざ三次会の会場まで行ってから帰らんでも」など自分の体験から苦笑したが。
一方、守須は江南に乗っかり自分もと言い出した感が否めない。
サークル内で交際を公表するのは、する方もされる方も気恥ずかしく、運営や活動に支障が出ることも多く、腰が引ける人がいるのも理解できるが、守須の場合はそればかりではない。
中二病的とでも言おうか、相手がどう思うか無関係に、自分の中でとにかく露見したくない思いが強く、相手を傷つけたり妙ちくりんな言動に走ったりしている。
飲み会でもそれが顕著に表れ、いきなり「じゃ、自分も(帰る)」と言い出し、千織が顔色を変えていた。おそらく千織からすれば、守須が残ると思ったから自分も、となったわけで、勝手に梯子を外されて泡を食ったのだろう。
何も知らない他のメンバーの手前、引きとめるわけにもいかないし、だからといって「私も帰る」とは言い出しにくい。
交際したての頃はそれでもよかったが、いつまでも秘密主義の彼氏に不信感を抱き、無理をしてまで内緒にすること自体にもストレスを感じていたかもしれない。
そりゃ自棄酒したくもなるわ。
ドラマ版の千織の、少々無茶な飲酒に至ったのだろう心情には頷けるし同情もできる。
その後の天候悪化などの不運も重なったが、千織の死は根本的には守須の臆病さが彼女を傷つけたことが原因なのだと推測できる、このシーンが挿入されていたのはよかったと思う。
お蔭で守須がどれほど理屈に合わない殺人劇を繰り広げようと気にならなくなった。
だって八つ当たりなんだもん。
守須自身は復讐だと考えているけれど、自分の臆病さゆえの結果を認めたくない卑怯者に、メンバーは理不尽に殺されただけ。
正当な動機はなさそうだと明確になったことで、非常にすっきりした気持ちで鑑賞することができた。
著名人コメント
日本テレビの公式サイトには、ミステリー作家・著名人、書店員のコメントが寄せられている。
不可能と言われ続けたトリックの映像化と、原作に忠実なストーリーとの2点が異口同音に高く評価されているが、依頼されて大仰に褒めたのだろうとは思わない。
もちろん原作を知らない人でも十分に楽しめる。
各々の文体や語り口を興味深く拝見したが、中でも辻村深月氏のコメントには共感した。
間取り図を見ながら自分ならどの部屋にしてもらおうかと妄想したし、こんな宿があるならぜひ訪れたい。
特にモスグリーンの十角形のカップは切実に手に入れたくて探したが、見つけたものの既に廃番になっていた。
原作者の綾辻行人氏はドラマで使用されたものと同じカップやトレイを贈呈され、SNSに写真をアップされていたが、羨ましいことこの上ない。
公式グッズとして一式、販売してくれないかしら。