個人的な映画・ドラマ日記です。
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作品情報
タイトル:MW-ムウ-
監督:岩本 仁志
脚本:大石 哲也 木村 春夫
原作:手塚 治虫
製作:松橋 真三
公開:2009年7月4日
配給・配信:ギャガ
上映時間・放送時間:129分
ジャンル:スリラー,アクション, サスペンス, ピカレスク
評価:★2.5/5.0
※出演者は「登場人物」を参照
登場人物(出演者)
結城 美智雄(玉木 宏)
沖之真船島の出身者。表向きはエリート銀行員、裏では島の関係者を中心に猟奇殺人を行う。
16年前に吸った神経ガス「MW(ムウ)」が原因で心身を蝕まれ、余命いくばくもない。
賀来 裕太郎(山田 孝之)
沖之真船島の出身者。教会の神父。
16年前、結城に助けられた負い目から彼の犯行を止められず、協力させられている。
沢木 和之(石橋 凌)
警視庁捜査一課の中年刑事。
橘 誠司(林 泰文)
警視庁捜査一課の刑事。沢木の部下。
望月 靖男(品川 徹)
大臣。
沖ノ真船島で起きたMW漏出事故を隠蔽。
山下 孝志(半海 一晃)
結城の上司。望月の後援者。
結婚を機に名字と戸籍を変えた。
岡崎 俊一(中村 育二)
建設会社役員。結城に娘を誘拐された。
松尾(鶴見 辰吾)
望月大臣の秘書。
三田(風間 トオル)
東京中央新聞の記者。
牧野 京子(石田 ゆり子)
東京中央新聞の記者。
あらすじ

16年前、沖縄近海にある沖ノ真船島で、秘密裏に貯蔵されていた神経ガス「MW(ムウ)」が漏洩する事故が発生。
島民の殆どは死亡。生き残った者も虐殺され、島民全員が一夜にして消えた。
その事実は日本政府により隠蔽され、島に関するすべての記録は闇に葬られたが、秘かに生き延び、本土に逃れた2人の少年がいた。
少年らは、それぞれエリート銀行員(結城)と神父(賀来)に成長。
結城(玉木宏)は「MW」が原因で心身を蝕まれ、猟奇殺人犯と化し、島の出身者で隠蔽に関係した者をターゲットに、国内外で殺人を重ねる。
バンコクでは島の出身者、岡崎が娘を誘拐され、巧妙な犯人の指示により街中を走り回らされた挙句、娘ともども殺害された。
タイ、日本両国の警察関係者も振り回され、唯一、捜査一課の中年刑事・沢木(石橋凌)だけが犯人に肉薄したもののまんまと逃げられ、身代金も奪われる。
タイまで身代金を運んできた銀行員、結城に妙な違和感を持つ沢木だったが、誘拐事件は最悪の形で終わった。
一方、賀来(山田孝之)は世話になった神父の跡を継ぎ、過去に懊悩しながらも誠実に教会を運営していたが、裏では結城の犯罪に協力させられていた。
警察に情報提供をしようと決心し、たまたま電話をとった橘(林泰文)と会う約束を取りつけたものの、先回りした結城の罠にはまり、結果的に橘を殺してしまう。
誘拐事件を追っていた新聞記者の牧野(石田ゆり子)は、突然打ち切りを言い渡されたが、納得いかず調べるうちに、一連の事件の被害者が沖ノ真船島の出身者であることに気がつく。
さらに16年前の件について取材中、事故死した先輩記者宅を訪れ、隠されていた手帳を発見。
牧野は結城と賀来に接触し、3人で沖ノ真船島に向かう。

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「MW」は今もなお沖ノ真船島に存在しており、水に触れると無力化するため、島の湖に沈められて保管されていた。
監視していた米軍に機銃掃射され、牧野は死亡。結城を止めようとした賀来も海に落下した。
結城は神父になりすまし、教会のバスで「MW」を米軍基地に持ち込み、軍用機で飛び立つ。
「MW」が原因でいつまで生きられるか分からない結城は、上空で「MW」を撒き散らすつもりだと言う。そこへ死んだと思われた賀来が現れ、結城と揉み合った末に「MW」を抱いて海に落ちていった。
神経ガス「MW」の脅威は払われ、望月(品川徹)は内閣総理大臣に就任。
所信表明演説の会場に白い煙が蔓延した。毒ガスではなかったが、それは生死不明となっていた結城の「いつでも殺せる」というデモンストレーションだった。
感想

原作はエグイ
本作品は暴力的な描写や残酷な殺人描写があるとしてPG12(12歳未満の鑑賞には、成人保護者の助言や指導が適当とされる)指定だが、原作はさらに過激らしい。
原作は「ビッグコミック」(小学館)1976年9月10日号 – 1978年1月25日号に連載された手塚治虫の漫画で、「同性愛」と「猟奇殺人」を扱っている。
原作は未読だが、結城と賀来の同性愛は直接的な上、女性の被害者も多く、その殺害方法などもかなり惨いようだ。
手塚治虫の漫画は、題材自体は過激でも描写はそれほどでもないように感じる。
それよりも例えば死んでほしくない、不幸になってほしくない登場人物や動物が、報われずにぼろ布のように扱われる、救いようのなさに精神的にやられる。
『アドルフに告ぐ』『奇子』『きりひと讃歌』など幾つか読んだ中では、幼い頃から親しんだ『ブラック・ジャック』以外は受けつけず、以来、手塚作品には触れていない。
漫画くらい、きれいな絵でスカッと読みたい。
元々画風も好きではない上に、『MW』では結城が愛犬に殺人をさせたり、性的な対象にもしているようなので、恐らくこれからも読むことはない。
同性愛描写はなし

製作発表当時、映画では描かれないことが明言されていた。
上映初日の前日には、結城と賀来が絡み合う妖しい画像が公開され、公式サイトのトップを飾ったものの、作中では匂わせる程度になっている。
後日明かされたところによると、主演2人の事務所は同性愛描写について了承していたが、スポンサーからNGが出されて直接的な描写ができなくなったとのこと。
玉木宏と山田孝之という、実力派の同性愛シーンは見てみたかった気もするが、匙加減を間違えるとそちらがメインになりそうだし、あれくらいの匂わせで結果的によかったのかもしれない。
賀来を助けるために結城が毒ガスを吸った経緯については、詳細は語られていなかったが、それだけでも十分に結城の犯罪に手を貸したり、告発をためらったりする理由にはなる。
ただ原作には、それ以上の関係が描かれていたのだから、もう少しだけ強く匂わせてもという気もする。

2016年公開『怒り』での妻夫木聡と綾野剛の同性愛描写がかなりよかったから、玉木宏と山田孝之もきっといい演技をしてくれただろうと思うと残念なんだよね

確かに実力派のいろいろな演技は見たくなるね
細すぎる玉木宏

最初に出てきた玉木宏を見た瞬間「ほっそ!」という声が出た。
膨張色である白の衣装を身に着けてもなお、その細さが際立ち、体調不良か病気なのではと心配になった。
鑑賞後に知ったが、原作の結城のイメージに合わせて7kgほど絞ったのだそうだ。
元々スリムで細面な方なので、個人的には絞らなくても十分。山田孝之とのバランスを考えても、むしろ減量してほしくなかった。
原作では梨園に生まれ、絶縁された有名歌舞伎役者の双子の兄を持つという設定。容貌が「メケ・メケ」ジャケットの美輪明宏(丸山明宏)にそっくりなので、昭和50年代、手塚治虫の思い描くゲイとは、若い頃の美輪明宏のような中性的で艶麗な容姿の持ち主だったのだろう。
だが今は同性愛者の多様性が表面化している時代。
映画が公開された2009年はまだ今ほどではなかったが、見た目が一般的な男性であっても、性的指向が同性というケースも多いという認識は存在していたと思われるので、この作品の場合は、昭和の価値観を再現しすぎる(=過度に減量する)必要はなかったのではないだろうか。
…とまあ、あれこれ書きはしたが、要は玉木宏の魅力のひとつである、女性性と男性性が絶妙に絡み合う独特の色気が、痩せすぎで十分に発揮されていないという、いちファンの不満でしかないという結論。
というか、どうせ痩せたのなら原作の設定通り、女装してもよかったのでは?

玉木宏の女装!見てみたかった!

ねっ。似合ってても違和感だらけでもどっちにしてもだよね!

てか美輪明宏、美形すぎてびっくりしたわ
「MW」の意味

作品のタイトルであり、作中に登場する神経ガスの名前「MW」には諸説あるようだ。
・Man & Woman:犯行の際、結城が得意とする女装や男娼的行為から。
・Mad Weapon:映画版公式サイトで示された説の一つ。直訳は「狂気の武器」。
・Monster Way:映画のノベライズ版で賀来が解釈した意味。直訳は「怪物の道」。結城の人生から鑑みると「怪物的な生き方」。
・M / W:映画版公式サイトで示された説の一つ。「180度回転させても同じなので『人の価値観は常に反転の可能性をはらんでいる』との解釈もある」とある。
公式サイト、Wikipediaによる
また「化学兵器の漏洩」というエピソードは、1969年7月18日に沖縄本島の米軍基地知花弾薬庫で起きたVXガス漏洩事故、及び極秘裏に数種の毒ガスが貯蔵されていた事実が明るみに出たことで1971年、2回にわたり島外に移送されたレッドハット作戦が下敷きになっていると考えられる。
2019年10月には、米国情報自由法により公開された過去の最高機密文書から、当時、知花弾薬庫に貯蔵されていた化学兵器の正確な構成とその危険性が明らかになっている。
復讐か道連れか


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最初は、結城の目的とは「MW」漏洩事故の裏側を知ること、さらに軍を含む関係者への報復ではないかと考えたが、話が進むにつれてよく分からなくなった。
結城が目的のためには手段を選ばないたちなのは序盤から分かっていたが、迷いのなさすぎる言動や感情の見られない、というかむしろ楽しそうな犯行から、復讐の鬼というよりは、「MW」の影響で良心がなくなっているように見えた。
人を殺して快楽を得るというよりは、単に自分の思い通りにしたり、他者(特に賀来)を振り回すのが楽しいというか。それが並外れて常識を外れているだけで。
中盤以降、取材していた記者を事故に見せかけて殺していた時点で、結城が何をしたいのか読めなくなってきた。漏洩事故を明らかにしたいのではなかったのか?自ら手を下したいから公表されたくなかったのだとしても、記者は敵対する存在ではない筈。殺す必要はないような?
例えば結城が単なる快楽殺人犯であるなら、結城ほどの頭脳と行動力と立場があればいくらでもやりようがあるのに、あくまで「MW」にこだわる。
最終的には「MW」とともに飛び立ち、「世界を道連れにしてやる」と、微妙に路線変更した復讐に戻る。えっと、少し前は「MW」はどの国でも欲しがるとか言ってませんでしたっけ?
この辺りは軍用機の撃ち落としのタイムリミットと、結城vs賀来の闘いのせいで、記憶が曖昧になっているので実際と違うかもしれないけど、とりあえず結城の目的は終始一貫しているようには見えなかった、とだけ。
ゆり子がもったいない
結城が牧野(石田ゆり子)を突き飛ばして米軍に銃撃させたことについて、流れ上は解る。
自分の姿は見られておらず、認識されたのは牧野と賀来だけだし、ここで牧野を抹殺して取材手帳を奪えば、後腐れがない。
でも「うわ、ゆり子あっさり死んだよ」とは思った。
石田ゆり子にしろ風間トオルにしろ、記者関係の出演は、せっかくの俳優陣がおつまみ程度の扱いでもったいない気がする。
ゆり子は記者としても真実に触れかけた途端にサクッと退場となり、最初から最後まで肉薄した刑事の沢木と比べると、ちょっと中途半端かな?中盤で退場した橘にしても、殺害シーンとしてはかなりの見せどころを作っていたし、刑事関係は善戦していたから、余計に残念。
望月大臣(品川徹)と松尾秘書(鶴見辰吾)も、超ベテランの出演&黒幕の割にはさっぱりしたものだし、原作がある以上、大筋は従わなければならないのだろうけれども、何だかねえ。

ちなみに事故死した記者の妻を演じた角替 和枝(つのがえ かずえ)は柄本明の奥様、柄本佑(長男)、柄本時生(次男)のお母様

え!ぷろびんのお母さん出てたの!?

大のゲーム好きで、手を疲労骨折しても『クラッシュバンディクー』やり続けたらしいよ

相方も真っ青のゲーマーじゃん…
終盤はドタバタ
序盤の誘拐事件、刑事の殺害からの沖ノ真船島への上陸、までは割とよかったが、結城が「MW」を手に入れてからはドタバタ。米軍基地でのシーンは、お粗末と言わざるを得ない。基地内も舞台としてはスカスカで作り込みが甘い。
結城と賀来の格闘はまあまあだったけれど、その後、結城が完全にロックオンされた軍用機から誰にも知られずに生還しているのも、わざわざ沢木に電話して生存確認させているのも、厳戒態勢の望月’s会場に茶番を仕掛けられるのも謎。というか不可能でしょ!?
不可解といえば、賀来があの高度で飛び降りて、果たして「MW」は無力化されるのだろうか。素人考えだが、高所から落下した場合、水面はコンクリート並みの硬さになるというし、衝撃で容器が破損して拡散される可能性も高いような気もするのだが。

結城が生きてるのは既定路線だけど、そのラストのせいで何かB級臭くなっちゃった

バリバリの指名手配犯なのに、てか国際指名手配もされてるかもなのに、これから生活どうすんだろね?
賀来への思いは?

山田孝之が神父というのは新鮮で、しかも気弱な感じがたまらず終始「ほほぉ」とにやにや。
記事を書くにあたり検索したら、その中に腐女子だかBLだかのサイト?がヒットしていたが、そういうことか?趣味外なので閲覧はしなかったが気持ちは解る。
それはさておき。
結城の賀来に対する思いとしては、友情と愛情、そしてそれらを超えた同志的な感情を抱き、唯一の信頼を置いているのかと思ったら、そうでもない。
賀来の諫言には一切耳を貸さず、何だか見下しているような、もてあそんでいるような態度の挙句、終盤でまさかの海に突き落とし。そこで僅かに表情は曇らせるものの、結局はまあまあ気に入りの玩具を落としたけれど、代わりはいくらでもあるといった感じで、さっさと引き返す。
笑いながら人殺しをする結城にしては珍しいが、所詮はその程度。
刑事を賀来に殺させる手間をかけてまで(それも楽しんだだけかもしれないが)、賀来に執着めいたものを見せ、絶対とは言い切れないが賀来だけは殺さないのではと思わせておいて、本気で邪魔をしに来たら容赦しない。
賀来を完全に失ってからも、もちろん打ちひしがれて出頭などしない。平気な顔で望月にちょっかいを出し、沢木と電話で談笑する。
だったら最初から協力さすなよ。面白そうに懺悔に来たりしないで、放っといてやれよ。
大事な玩具なら、せめて心中するレベルに粘着してやれよ(…と思うのは重恋ストっぽいかな)。
こういうところが手塚治虫っぽくて好きじゃない。
ただ同性愛に代わる「助けられた恩義」や、「助けるために図らずも払った犠牲に対する申し訳なさ」からくる贖罪にはしっくり来たし、原作をまったく知らなくても、仄かに2人の関係を連想させる視線や仕草、微妙な身体の触れ合わせ方は流石だと思う。

山田孝之ってゴツゴツで破天荒なイメージだったから、苦悩する神父役は新鮮だった♥

弱々しい顔見て「ふふふ…」とか言ってたもんね