以前、ある犬飼いの方から聞いた話です。
記事にする許可はいただいていますが、プライバシー保護のためディテールは変えています。
今回は、犬飼いにとっては切っても切り離せない「社会化」と「ソーシャル・ネットワーキング・サービス=SNS」が絡んだお話です。
SNSとプライバシー
最近はツイッターなどで、飼い犬の動画や画像をアップする飼い主さんが増えました。
よそのかわいいワンコを楽しめていいなーと眺めている一方で、たまに、自分の飼い犬以外も写り込んでいる動画を上げている方もいらっしゃいます。
もちろん、ほとんどの方は、写っている他の子の飼い主さんに許可を得ておられるのだろうと思います。でもドッグランなど不特定多数の方々が利用される場所で、勝手に撮ったんじゃないかな?と思われる動画も中にはあり。
他の飼い主さんのお顔や車などが、遠目とはいえしっかり写り込んでいるのを見ると「いいのかな」という気持ちになります。
日常を撮影して、そのまますぐにアップする動画なので、編集などはされないようですね。
私のりまき自身は、勝手に他人を写したり、さらにそれをSNSにアップしたりするのは、断固反対です。
自分がされたら絶対に嫌です。
近頃では「ネットリテラシー」「ITリテラシー」という言葉が現れているように、「他人や家族の写真を許可なくネットに掲載する」ことはNGとされています。
ただ今のところ、強制力のある規制・基準はありませんので、ある程度はアップする側の常識に委ねられているのが現状です。
知らないうちに撮られることに、それほど嫌悪感のない方もいらっしゃるかもしれませんが、非常に抵抗のある人間も中にはいるのだと、動画や写真を撮る方には知っておいていただきたいなと思います。
犬見知りのしーちゃん(仮)
たまたま知り合った今回のお話の主人公、犬飼いさん(仮に「Aさん」とします)の飼い犬「しーちゃん(仮)」は、シニアに差しかかろうかという年齢。
基本的に人間には愛想がいいのですが、犬はあまり好きではなく、犬同士で挨拶したり一緒に遊んだりはしたがらないそうです。
社会化を失敗したかもしれないとAさんはおっしゃっていました。
穏やかなご夫婦2人暮らしで、甘やかさないようにしつけたとのことで、見た感じわがままなところはありません。
しーちゃんは素で笑っているような顔で、私にも初対面からなつっこく寄って来て、なでさせてくれたのですが、犬同士だと場合によってはケンカ腰になることもあるそうです。
中型犬なので、犬同士でトラブルになった時に、小型犬が相手だと加害側になってしまうので、散歩の時なども気を遣っているとのことでした。
あたしも他のわんこは苦手なんだよね…
よその飼い主さんも、お互いに自分の犬は近づけない感じだしね~
そんなわけでAさんは、ドッグランを利用する時も、他の利用者がいない時間帯を狙って行かれているそうです。
よく行くのは、ペット関連の商品を扱うお店がサービスで併設している、小さなドッグランでした。
お店で買い物をした後に、しーちゃんをしばらく遊ばせて帰るのが定番でした。
お店の方も犬嫌いのしーちゃんに理解があり、とても居心地がよいとのこと。
人間に対しては苦手意識のないしーちゃんも、お店のスタッフさんが大好きで、お店に行くのをいつも楽しみにしていた様子でした。
ドッグランにて
ある日も、いつものように誰もいない時間帯を狙って来店。
買い物を終えてから、お店の裏手にあるドッグランで遊ばせていると、来客の気配がして、しーちゃんがそわそわし始めました。
店内を見ると、飼い主さんに連れられた小型犬がウロウロ。
あちらは目ざとくしーちゃんを見つけて、ドッグランへの出入り口に駆け寄り、一緒に遊びたいのか、興奮していました。
相手の飼い主さんは、笑顔でしーちゃんを見ながら、お店の方に何か話しかけていました。
そしてすぐに、小型犬を連れてドッグランへ出てきました。
しーちゃんの犬嫌いを知っているお店の方が、慌てて後を追いましたが、間に合いませんでした。
飼い主に出入り口を開けてもらった小型犬は、転がるように飛び出してきて、嬉しそうにしっぽを振っていました。
しーちゃんはそれほど攻撃的な性格ではありませんが、小型犬につられて興奮気味になり、警戒している様子。
小型犬の飼い主さんは、当然しーちゃんと一緒に遊べるものと思っているらしく、笑いながら愛犬に引っ張られるように近づいてきました。
しーちゃんの警戒度はますます上がり、このままだと吠えたりうなったりしかねないと思ったAさんは、小型犬としーちゃんの間に割って入るように立ち、「この子は他の犬が苦手で、遊べないんです。すみません」というようなことを伝えました。
そして、急いでしーちゃんを連れて店内に戻り、申し訳なさそうなお店の方に挨拶をして帰宅されたそうです。
SNSでの非難?
それだけなら、特に問題はありませんでした。
しかし後日、Aさんは偶然あるSNSで、いつも自分たちが利用しているドッグランと思しき動画を見かけました。
周りの建物やフェンスなどが少し写り込んでおり、一目でいつも行くお店のドッグランだと分かったそうです。
動画では、見覚えのある小型犬が、1匹だけで楽しそうに駆けまわっていました。
そしてその飼い主さんは、「先客の子がいて、一緒に遊べると思ったのに、無理とのことでした」とSNS内でおっしゃっていました。
その発言で、Aさんは自分たちがお店で遭遇した犬連れの人だと確信。
さらに「他の子と遊べないような、社会化のできていない子をドッグランに連れて来るのはいかがなものか」というような、冗談めかしながら非難するような内容も書かれていました。
当然ながら、Aさんはショックを受けました。
ドッグランを利用しているからといって、どんな犬とでも仲良く遊べるわけではないし、だからこそ他の人がいない時に行っていたのにと。
加えて、その小型犬や飼い主さんとは初対面だったそうで、Aさんが一緒に遊ばせたがらないのも無理はないと私も思いました。
あたしもしーちゃんと同じ態度になったと思うけど…
それでこんなこと書かれたら、あたしもショックだよ…
犬のしつけ本などでよく出てくる「社会化」については、別の記事でまとめますが、Aさんはしーちゃんが子犬の頃から、できるだけ家の外の環境に慣れさせるように努力はされていたそうです。
どうしても甘やかしてしまいがちなので、意識してしつけも頑張られたようです。
それでもしーちゃんは、他の犬が苦手な子になってしまいました。
今は歳も重ねて穏やかになり、我慢もきくようになりましたが、若い頃は他の犬とガンを飛ばし合うこともあったとか。
ドッグランでのできごとは、私はAさんに非があるとは思えませんでした。
しーちゃんのような子でも、たまにはのびのび走らせてやりたいと飼い主が考えるのは無理からぬことです。いつも利用しているお店に、せっかくドッグランがあるのですから、なおさらです。
そのために、わざわざ利用客のいない時間帯を選んでいるのです。
さらに後から来た子に譲って帰っているのに、なぜSNSで非難めいたことを言われなければならないのでしょうか。
小型犬の飼い主さんは、きっと犬同士で遊ばせることができなかったのが残念だったのでしょう。気持ちは理解できますが、「社会化のできていない犬をドッグランに連れてくるな」というのは、この場合は言いすぎではないかと思いました。
Aさんたちのその後
あれから、お店には自分が買い物に行くだけで、しーちゃんは連れて行かず、もちろんドッグランは利用していないとのことでした。
お店の方からは、配慮が足りなかったと謝罪があったそうです。
Aさんはお店側に責任があるとはまったく思っておらず、しーちゃんもお店やスタッフさんが好きなので、本当はしーちゃんを連れて行きたい気持ちもあるそうです。
ですが、その小型犬の飼い主さんとまた出くわす可能性もあり、もしくは社会化が十分にできていないしーちゃんをよく思わない他の飼い主さんも現れるかもしれないため、これまでのように利用するのは難しいのでは、というお話でした。
SNSにおいて、見ず知らずの他人に批判的に書かれたことにより、Aさんは自分を「ダメ飼い主」、しーちゃんを「ダメ犬」と言われたかのような気持ちになり、萎縮してしまったようでした。
SNSの件をご存じないお店の方は、今まで通り来てほしいとAさんにおっしゃったそうですが、お店側が受け入れて下さっても、なかなかそうはいかないというのも理解できます。
たとえお店にSNSの件を訴えたところで、お店としても対処が難しいでしょう。
Aさんとしては「結局は他の子と仲よく遊べないうちの子が悪いのだから、今まで遠慮しながら利用させてもらってきたけれど、それも許されないなら、利用をやめるしかない」という結論にならざるをえなかったようでした。
Aさんのお話を聞きながら、私のすぐそばにいるしーちゃんがかわいくていい子だけに、何だか不憫で、やりきれない気持ちになりました。
難しい線引き
犬にもそれぞれ性格や個性があり、また今は室内飼いが基本なので、犬同士で遊べない子も、他の犬が嫌いな子も、少なからずいるでしょう。
それほど運動量を必要としない小型犬であれば、無理にドッグランに連れ出さなくても、飼い主さんとの遊びやお散歩で十分かもしれません。
でも中型犬以上になれば、たまには広々とした場所で思い切り走らせてやりたいと考える飼い主さんがいても、無理はないと思います。
ドッグランを運営するお店側がOKを出しているのに、また飼い主側も配慮して利用しているのに、それを同じ利用者が、自分たちの不利益になるからと排除するのはどうなのだろうと考えてしまいました。
もちろん「他の利用者に迷惑をかけない」というのは大前提です。
ドッグラン内に利用者がたくさんいる中で、そんな子をいきなり離すのは、確かに飼い主として無責任ですが、今回のしーちゃんの場合は違います。
飼い主であるAさんは、他の子とは遊べないからと、トラブルを未然に防ぎ、後から来た子に譲って早々に引き上げています。
それなのに誰が見るか分からないSNSにおいて、Aさんの目に触れれば分かってしまう内容を上げ、さらに非難までしてしまう小型犬の飼い主さんは、少々配慮に欠けているのではないでしょうか。
私には、自分の犬と遊ばせたかったのにできなかった腹いせのようにも思えました。
犬は変化する生き物
いろいろな理由で社会化がうまくいかなかった子でも、少しずつ変わっていくこともできると思います。(あくまで「飼い主の手に負える程度」であることが前提なので、許容できない問題行動があるなら、速やかに専門家に相談する必要があるでしょう)
実はのりまき家の愛犬あずも、誰にでもフレンドリーとされるラブラドール・レトリバーであるにもかかわらず、人も犬もダメダメなのです。笑
それでも成長するにつれて変化が見られ、今も変化しつつあります。
ラブラドールは精神的な成熟が遅いとされる犬種なので、今も変化の最中にあり、やがてはスルーくらいできるようになるのではと期待しています。
そんな風に思えるようになるまでは、自分たちの育て方が悪かったのではないかと、ずいぶん悩みました。
今でも、あずが他の人や犬に出くわさないように気をつけたり、はからずも出会ってうなるような時は、やはり神経をすり減らします。
でも「スミマセン、スミマセン」と頭を下げるのも、飼い主の務めであり、あずのためなのだと割り切れてからは、ずいぶん精神的に楽になったような気がします。
成犬になってからでも社会化はできますし、私個人としては、周囲に迷惑をかけることがなければ、それもその子の「個性」だと受けとめてやればよいのではと思います。
「社会化がうまくいかなかった」と悩む飼い主さんは、それだけきちんと愛犬と向き合ったということでもあります。自分を責めずに、大らかな気持ちで愛犬の変化を見守ればよいのではないでしょうか。
もちろん周りへの配慮も忘れずに、愛犬とともに散歩やドッグランを楽しむことができれば、そして周りも優しい気持ちでそっとしておいてあげることができれば、それがいちばんだと思います。
「早くドッグランでいっぱい遊べるといいね~」となでると、しーちゃんは嬉しそうにしっぽを振ってくれました。
SNSを見てしまった直後は、かなり落ち込んだというAさんも、今は少しずつ気持ちの整理がつき、またしーちゃんをお店に連れていけたらいいなと思えるようになったとのことでした。
あたしもドッグランで遊びたいな~
あんたは何でもかんでも拾い食いするから無理!
え~それもあたしの個性なんじゃないの?
どの口がそれを言う(拾い食いだけに)