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セロイド・リポフスチン症(CL症)

わんこのトリセツ
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セロイド・リポフスチン症とは

「セロイドリポフスチン沈着症」「セロイドリポフスチン脳症」とも呼ばれます。
平たく言うと、細胞の異物を取り除く器官であるリソソームの異常により、代謝老廃物が分解・除去されず、細胞に蓄積して起こる、致死性の遺伝性疾患です。
国内ではボーダー・コリーやチワワなど、数種の犬種で確認されています。

原因

細胞内にはリソソーム(ライソゾームまたはライソソーム)という直径0.1~1.2 μmの小器官があり、老廃物や傷ついた自分の細胞などを、酵素を使って分解・消化しています。
分解されたものは再利用される場合もあり、「細胞のリサイクル工場」に例えられます。
他にも損傷した細胞膜の修復など様々な機能を持っています。

かがくイラスト-細胞・細胞小器官

リソソームの機能異常により、ヒトには約60種類もの遺伝病であるライソゾーム病(リソソーム病、リソゾーム病、リソソーム蓄積症とも)が存在することが知られ、日本では「ライソゾーム病」という名称で国の特定疾患(難病)に指定されています。
多くは、リソソームによって分解されなければならない物質が蓄積することによって起こります。

CL症はライソゾーム病の一種で、ヒトもイヌも罹患します。
遺伝子異常により、代謝物質を分解する酵素、代謝産物を運ぶタンパク、イオンを通過させて細胞の働きを守る経路などが、正しく働くことができず、本来なら処理される筈の不要物(リポフスチン)が細胞内に蓄積し、発症します。
様々な部位での遺伝子異常が見つかっていますが、特に脳細胞への蓄積により、神経症状が中心に現れます。

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リポフスチンとは

過酸化脂質や過酸化タンパク質が変性してできた色素の一種です。加齢とともに蓄積されるため「老化色素」と呼ばれます。
血管をくすませる原因となっており、「老人斑」と呼ばれる老人性のシミは、リポフスチンが蓄積してできたものです。
リポフスチンは皮膚だけでなく、神経組織や全身臓器にも蓄積することが分かっており、マウスでは中枢神経に沈着すると記憶力や神経が衰え、迷路走行ができなくなります。
実験(比較)によれば心筋への沈着は、犬はヒトよりも5倍も速く、代謝に深く関連していると考えられます。

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症状

脳が正常に機能しなくなることにより、以下のような症状が見られます。

・錯乱行動(攻撃性の増加)
・知能の低下
・痴呆
・運動障害
・視覚障害(失明や視力低下)
・方向感覚や平衡感覚の低下
・けいれん など

1歳以上の発症が多いとされ、発症後は徐々に脳細胞のダメージが進行し、3歳頃に死に至ります。

治療法

治療法はありません。
症状をやわらげる対症療法を行い、飼い主さんが生活の補助など状態に合わせてケアをします。
進行性、致死性の疾患なので、重度になると安楽死を視野に入れる場合もあります。

予防法

予防法はありません。
遺伝性の疾患なので、繁殖犬の遺伝子検査を行い、選択的な繁殖で発症する仔犬が生まれないように管理します。
発症した犬の親兄弟、血縁の犬の発症や繁殖には注意する必要があります。

参考:
脳科学辞典「リソソーム」(東京大学 医学系研究科 分子生物学分野)
みんなのどうぶつ病気大百科(アニコム損害保険株式会社)「セロイドリポフスチン症(CL症) <犬>」
FPC「セロイドリポフスチン症」
Withpety「犬のセロイドリポフスチン症」
J-STAGE(日重障誌 38(2),2013)「若年型神経セロイドリポフスチン症に合併した心不全の1例」(西條晴美 江添隆範 倉田清子)
J-STAGE(日本老年医学会雑誌17巻6号(1980:11))「リポフスチン蓄積度に関する研究-心臓,肝臓,副腎における加齢および他要因との関連-」(横田実)
神経セロイドリポフスチン症とともに「神経セロイドリポフスチン症を知ろう」
ポーラ化成工業株式会社「血管がくすむ原因物質「リポフスチン」を除去するエキスを発見」
ビタミン広報センター「ビタミンE」
Atomic Bomb Disease Institute, Nagasaki University「8. 実験動物における加齢変化: リポフスチンについて」(中村昌俊)
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