2020年5月22日(金)、国内で狂犬病の発症が確認されたとの発表がありました。
「日本国内で感染」ではなく、「日本国内で発症」ですが、それでも2006年以来14年ぶりとのことです。
ニュース概要
2020年5月22日(金)、静岡県静岡市と愛知県豊橋市は、フィリピンから来日し、静岡市に在住の外国人が狂犬病を発症したことが確認されたと発表しました。
患者の国籍・性別は公表されていませんが、外国人であるとのことです。
2019年9月頃にフィリピンで左足首を犬に噛まれ、2020年2月に来日。
静岡市に在住し、豊橋市で就労していました。
5月11日に、足首の痛みを感じ、食欲不振や腹痛・嘔吐などの症状を発症。
18日に豊橋市内の医療機関を受診しました。
19日に医療機関より保健所に「狂犬病の疑い」が報告されました。
国立感染症研究所のPCR検査を受け、22日に狂犬病ウイルスの陽性が判明。
現在は集中治療室(ICU)に入っており、病状は重いとのことです。
- 2019年9月頃
フィリピンで犬に噛まれる
- 2020年2月
来日して就労
- 2020年5月11日(月)
患者に自覚症状が現れる
- 18日(月)
豊橋市内の医療機関を受診
- 19日(火)
医療機関から保健所に報告
- 22日(金)
狂犬病ウイルス陽性
狂犬病とは?
狂犬病は、狂犬病ウイルスを病原体とするウイルス性の人獣(または人畜)共通感染症です。
病名に「犬」とついてはいますが、ウマ・ウシ・コウモリなどヒトを含むすべての哺乳類動物に感染します。もちろんネコも感染します。
特徴的な症状があるため、「恐水病」または「恐水症」と呼ばれることもあります。
感染経路
一般的な感染経路は、感染した動物に噛まれ、唾液に含まれるウイルスが傷口から侵入することにより感染します。
哺乳動物の中でも、症例の90%以上は犬に咬まれたことが原因とされます。
傷のない健康な皮膚を舐められた程度では、感染の可能性はありません。
傷口や粘膜部分を舐められたり、出血を伴うひっかき傷や噛み傷は、感染のリスクが高まります。
まれな例ですが、感染コウモリの生息する洞窟内での飛沫感染(エアロゾル感染)、実験室での感染、感染者からの角膜移植・臓器移植による感染などの報告があります。
噛まれると唾液により感染するので、傷口をよく洗いましょう!
まず動物に安易に手を出さないことが大切です!
潜伏期間
狂犬病ウイルスは、神経系を介して脳神経組織に到達し、発病します。
すなわち、脳に近い傷ほど潜伏期間が短いことになります。
狂犬病の潜伏期間は一般的に1~3カ月、長ければ数カ月以上です。ブラジルから移住した男性が、8年経って発症した例もあります。
症状
初期には、発熱・食欲不振・頭痛・脱力感など、風邪やインフルエンザに似た症状が現れます。
噛まれた部分の違和感やチクチク感、かゆみを伴う場合もあります。
その後、急性神経症状期として不安・混乱・焦燥感などの脳炎の症状が見られるようになり、進行すると、異常行動・幻覚・水を怖がる恐水症状や風を怖がる恐風症状などの症状が現れます。
末期には昏睡状態に陥り、呼吸障害によりほぼ100%が死亡します。
症状に応じた対症療法が行われますが、狂犬病の治療法・治療薬は存在しません。
生存例は20例にも満たず、ワクチン接種を受けずに発病した場合、致死率はほぼ100%です。
何か…実はものすごく怖い病気じゃない?
ヒトからヒトへ感染することはありませんが、感染するとほぼ確実に死にます!
流行国
WHOによると、毎年59,000人が狂犬病により死亡しています。
そのうち60%をアジアが占めており、推定で年間35,172人が死亡しています。
インドは狂犬病の発生が最も高く、アジアでの狂犬病による死亡の59.9%、世界での死亡の35%を占めています。
また狂犬病の症例の99%は、犬を介したものであると発表されています(90%とする説もあり)。
今回、感染が報告されたフィリピンは、狂犬病発生地域の中でも、推定死亡者数が100人以上の国です。
毎年200~300人が狂犬病により命を落としています。
また14年前の2006年に報告された日本人の発症例は2件あり、感染国はいずれもフィリピンでした。
日本人のフィリピンでの感染例が多いのは、渡航する人が多いからだって言われてるね
日本における狂犬病
日本では1950年(昭和25年)に狂犬病予防法が施行され、1957年以降、国内での狂犬病感染例は報告されていません。
1970年にネパールでの感染例、2006年にフィリピンでの感染例が報告されています。
日本は世界でも稀有な「狂犬病清浄国」なのです。
しかし、周辺国を含む世界のほとんどの地域では、狂犬病は依然として発生しており、万一の侵入に備えた対策が重要となっています。
日本で狂犬病が発見された場合
国外で感染し国内で発症した場合
発症した犬は隔離後、適切な処置をされます。おそらく殺処分ではないかと思われます。
その犬の飼い主や家族の方も精査対象になります。
その後、聞き取り調査などで感染経路が特定され、沈静化が図られます。
国内で感染、発症が認められた場合
発症した地域が隔離されます。
感染経路が哺乳類全域なので、人間も隔離対象となります。
狂犬病を発症した犬はもちろん、感染の疑いがある、狂犬病予防接種を受けていない犬も、隔離後、殺処分の対象になる可能性があります。
たとえ狂犬病の予防注射を接種した犬であっても、狂犬病の感染や被害を最小限に食い止めるために、殺処分の対象になるということも考えられます。
殺処分…(ゴクリ)
殺処分…(コクリ)
狂犬病予防接種
日本では、厚生労働省の狂犬病予防法により、生後90日を過ぎた犬は、必ず狂犬病予防注射を接種し、その後は1年に1度の予防接種で免疫を補強することが法律で義務づけられています。
基本的には生涯にわたる接種が必要となります。
期間は4月1日から6月30日までと決められています。
動物病院では年間を通して接種を受けることができます。
外国から感染動物が持ち込まれ、その動物から国内の犬に感染し、感染した犬から人へと感染する可能性は、極めて少ないながらもあります。
そして万一発症すれば治療法はなく、ほぼ100%で死に至ることを理由に、未だに予防接種は必要とされているのです。
予防接種は犬のためではない
狂犬病の予防接種は、厚生労働省の狂犬病予防法により、飼い主に義務づけられたものです。
それは本来「犬が狂犬病に感染しないため」ではなく、「人が狂犬病に感染しないため」なのです。
ですから法律上は、高齢であろうと病気であろうとアレルギー体質であろうと、「犬を飼っている以上は、毎年予防接種は必ずしましょう」ということになっています。
しかし日本の予防接種率は、70%程度となっています。
接種率が最も高いのは山形県の約90%、逆に最も低いのは沖縄県の約50%です(2018年/平成30年)。
狂犬病予防注射猶予証明書
体調不良の老犬や病気があるなどの健康上の理由があれば、予防接種が免除されることもあります。
獣医師から「狂犬病予防注射猶予証明書」を発行された場合のみ、その年度は狂犬病ワクチンの接種を回避することができます。
飼い主側が独自の判断で予防接種を回避することは認められていません。
猶予された場合、居住地域の市町村の公衆衛生を担当する部署に「猶予証明書」を提出して、接種を猶予されたことを伝える必要があります。
猶予証明書の有効期限は1年間なので、毎年提出する必要があります。
免除が必要かどうかは、あくまで獣医師の判断によりますが、愛犬が下記のような状態にある場合、予防接種が免除になる可能性があります。
過去の狂犬病予防注射で副反応(アレルギー、体調悪化など)が出た
狂犬病予防注射猶予証明書について(コルディ研究室)
がん治療中である。がんの再発のコントロール中である
重い免疫疾患を患っている
重い感染症を患っている
重度のアレルギー、アトピー体質である
痙攣を起こしやすい
闘病による体力低下が著しい
老衰である。高齢のために体力・免疫力の低下が著しい
抗がん剤、抗リウマチ薬などの強力な免疫抑制剤を使用している
のりまき家の場合
のりまき家の愛犬、黒ラブのあずきが生後90日を過ぎた頃は、ほぼ毎日お腹を下していました。
そのため、かかりつけの獣医師からは「狂犬病の予防接種はもう少し様子を見てから」と言われました。
初めての予防接種を受けたのは、生後6カ月近くになってからです。
それ以降は、混合ワクチン接種と狂犬病の予防接種は、毎年必ず受けています。
私たちにとって、あずは大切な家族ではあるけれど、その前に犬なのです。
もしもの事態を考えると、人間を危険には晒せないと考えて、予防接種を受けさせています。
そしてそれは、結局はあずのためでもあるのです。
万一、国内で感染・発症例が出た場合、予防接種を受けていない犬は、感染するリスクが高まり、その結果、殺処分される可能性があるからです。
犬が人間より優先されることは決してありません。
発症した時に、人間であれば入院・隔離措置が取られますが、犬は高い確率で殺されることになるでしょう。
狂犬病予防法がもはや時代遅れであるとか、施行された時とは状況が違うとかいう意見もあります。
日本と同じように、長い間狂犬病の感染が報告されていない国では、予防接種の義務づけをやめた国もあります。そのせいで狂犬病が蔓延したということもありません。
しかし、致死率が100%の病気が、未だ世界各国に存在し、いつ日本に再上陸しないとも限らない状況下で、予防接種を受けさせないという選択肢は、私にはありません。
年老いたり、病気を抱えたりして、予防接種を受けられない状態になった時には、獣医師に相談の上「狂犬病予防注射猶予証明書」の発行をしていただくつもりです。
今はたとえ、愛犬が命を落とす可能性があったとしても、予防接種は受けさせます。
それが狂犬病清浄国で犬を飼う覚悟であると、個人的には考えています。
参考:
テレビ朝日系(ANN)「愛知・豊橋市で狂犬病発症 国内14年ぶり確認」
静岡新聞社「静岡の外国人、狂犬病感染 フィリピンで足かまれ」
共同通信「外国籍者の狂犬病発症確認、愛知 フィリピンでかまれ来日」
読売新聞社「国内で14年ぶり狂犬病患者、比でかまれ感染」
時事通信社「国内14年ぶり狂犬病発症 来日者、フィリピンで感染か 愛知・豊橋」
忽那賢志「14年ぶりの国内例 狂犬病ってどんな病気?」
WHO「Epidemiology and burden of disease」
National Library of Medicine「Possible Human-To-Human Transmission of Rabies in Ethiopia」
National Library of Medicine「Phylogenetic and Epidemiologic Evidence of Multiyear Incubation in Human Rabies」
老犬ケア「老犬の狂犬病予防接種やワクチン接種は必要?」
コルディ研究室「狂犬病予防注射猶予証明書について」
兵庫ペット医療センター「なぜ狂犬病ワクチンを打たなければならないのか?」
厚生労働省「狂犬病」
厚生労働省「都道府県別予防注射頭数」
厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「ヒト狂犬病症例集2008-2012年」
厚生労働省研究班「バイオテロ対応ホームページ-12.狂犬病」
CDC;Rabies Prevention and Control: Healthcare Settings -updated May 10, 2006
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ほか