作品情報
タイトル:リターン・ザ・ギフト
監督:大山 晃一郎
脚本:篠山 輝信
原作:麻耶 雄嵩
公開:2026年5月1日
配信:Hulu
放送時間:54分
ジャンル:サスペンス,ミステリ
個人的評価:★3.0/5.0
※出演者は「登場人物」を参照
主な登場人物(出演者)
メルカトル 鮎(水沢 林太郎)
タキシードにシルクハット姿の“悪徳銘探偵”。
飄々と状況を判断し的確な推理を行う。
助手役の美袋に対してはかなりぞんざい。
美袋 三条(須賀 健太) ※「美袋」読みは「みなぎ」
ミステリ作家。メルカトルの助手役。
メルカトルの事件を小説化するほか、オリジナルの小説も書いているがパッとしない。
メルカトルにあれこれ押しつけられ割を食うことが多い。
鵠沼 美崎(恒松 祐里) ※「鵠沼」読みは「くげぬま」
人気作家。
21歳で新人賞の佳作を受賞してデビュー。
藤沢と並び「2大美女作家」、「恋愛小説の旗手」と称されるが本人は不満に感じている。
藤沢 葉月(弓木 奈於)
鵠沼と並ぶ人気作家。
鵠沼と同じ新人賞の大賞を受賞。その後も大きな文学賞を受賞している。
柳(新木 宏典)
和歌山県警の刑事。下の名前は不明。
鵠沼の転落現場に臨場。
解説
動画配信サービス・Huluが「ミステリーシネマ」と銘打つ1話完結型の本格ミステリードラマ。
第1弾として有栖川有栖、法月綸太郎、麻耶雄嵩の人気短篇小説3作を実写映像化し、4月17日(金)より毎週1作品ずつ、3週連続で独占配信。
『メルカトル・ナイト』は5月1日(金)に配信が開始。
原作は2021年刊行の『メルカトル悪人狩り』(講談社ノベルス)に収録されている同名短編小説。初出は「メフィスト」2019 VOL.3。
原作は未読。
あらすじ

探偵・メルカトル鮎(水沢林太郎)の事務所に人気女性作家・鵠沼(恒松祐里)が訪れる。
カウントダウンのように毎日送られてくる謎のトランプを並べ「命を狙われているかもしれない」と相談。
トランプはダイヤのKから始まり、Q、J、10、…と数字が下がっていった。自宅からホテルに移ってからも送りつけられ、ダイヤのAの後はハートのKになり、今朝はハートの4が届いたという。
メルカトルと助手の作家・美袋(須賀健太)は鵠沼に依頼され、ハートのAが送られてくるであろう日に、鵠沼の滞在する白浜のリゾートホテルを訪れる。
メルカトルは鵠沼の部屋を丹念に調べ、今夜は念のためベランダにも出ないようにと忠告。さらに鵠沼の寝室が見えるリビングに美袋を配置して寝ずの番をさせる。
しかし翌朝5時半、鵠沼はホテルの敷地内で遺体となって発見された。

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鵠沼は頸椎と頭蓋骨を骨折しており、薬物反応はなく、ベランダからの転落死と断定。
衣服が濡れていたことから、死亡時刻は雨が降っていた夜11時から1時とみられた。
寝室の窓の鍵が開いていたため美袋が疑われたが、メルカトルの意見により隣の708号室を調べたところ、部屋には指紋がなくジャージと靴だけが残っていた。
その間、ホテルには鵠沼宛にトランプ、スペードのKが届く。
メルカトルは708号室を予約した“イシガミ ハナコ”の正体は鵠沼と推理。
業者にトランプを自動的に送らせ、探偵に依頼してアリバイを確保。
ベランダ伝いに隣室に移動し、ホテルを抜け出してライバルの藤沢(弓木奈於)を殺害しようと企てたが、昨晩の雨と落雷で誤って転落したと結論づけた。
この事件を小説にした美袋が事務所を訪れると、珍しく小説を褒めるメルカトル。
疑惑を抱いた美袋に、メルカトルは鵠沼の狂言に最初から気づいていたこと、思いとどまるよう警告し続けたことを告白。
なお食い下がる美袋に帰るよう促している間に、藤沢がやって来る。
実は2週間前に愛犬が不審死したことから、藤沢はメルカトルに相談。
藤沢がメルカトルの本来の依頼者だったことを、美袋は初めて知る。
「だから言っただろ。私は死を防げなかったが失敗はしていない」と諭すように語るメルカトルを、美袋は無言で見つめた。
感想

不可解な点
ドラマ内で見逃せない点が幾つかあった。
原作にあたれば答えは書いてあるかもしれないし、ドラマのオリジナルなのかもしれないが、とりあえず挙げていく。
すり替え
鵠沼の死後、届いたトランプはスペードのKだった。
そして柳刑事にメルカトルが「今日も届いていた」と渡した封筒からは、クラブのKが現れた。
スペードのKはメルカトルが確認しており、郵便局員やホテルマンも目にした可能性はあるが、美袋や柳はその場に居合わせていない。
とすればトランプをすり替えられるのはメルカトル1人ということになるが、その理由は?
刑事事件における証拠品のすり替えは、証拠隠滅等罪(刑法104条)に該当する。探偵のメルカトルが知らない筈もなかろうが、まああの人格なら意にも介さないとして、それでも解せない。
依頼人を安心させることにも繋がらないし、今さらソートの順をうやむやにしても無駄だと思うのだが。
しかも、いつまで手配したのかは知らないが、翌日にも届くとしたら、スペードのQになる。
そうまでしてクラブにすり替える必要性が感じられなかった。
というかクラブのKなんかどこから持ってきた?
まさか制作側のミスではあるまいな?
始まりはダイヤ

まずトランプの強さについて。
一般的に数字は「A、K、Q、J、10、9~2」となり、絵柄(スート)は「スペード > ハート > ダイヤ >クラブ」の順となる。
本作での数字は単に順番を示しているようなので置いておいて、届いたのがダイヤからハートになったことから考えれば、犯人は一応スートの順を意識しているように思われる。
だが、それならクラブから送りつけ、XデーはスペードのAとするのが妥当ではないだろうか。
その場合、4スート×13枚=52となり、決行日まで2ヵ月近くを要することになるが、殺人を犯そうというのだから、それくらいは当然だろう。
逆に短期決戦を目指すなら、手っ取り早くスペードからにすればよい。
スペードの持つ象徴的な意味は「剣」、季節は「冬」。さらに諸説あるが「死」や「知性」、「試練」を表しているらしい。
殺す側にとっても殺される側にとっても、また作家という職業の者にとっても、これほど相応しいスートはない。赤ではない、ということを除けば。
メルカトルは鵠沼に対して、「富も名声も得てもなお創作意欲を失わない」「勝ち続けてきたあなたに相応しい美学」などと、依頼者とはいえ過剰なまでに褒め続けていたが、おそらく本心ではないだろう。
自分の書いているのは恋愛小説ではなく女性小説だと実の伴わない主張をする鵠沼は、売れっ子作家ではあろうが二流臭が漂う。
行動を起こす際にもダイヤとハートしか用意しない、所詮はその程度の作家なのだと、個人的にはメルカトルのすり替えたクラブには、そんな思いが乗せられているようにも感じる。
球はいつから

メルカトルが推理を披露しながらカチカチと合わせてみせたビリヤードの的球(まとだま)は赤と黒。
そこで美袋が鵠沼の本来の目的に気がつくわけだが、演出自体は洒落ている。
だが最初に鵠沼に案内されて2人がスイートルームに足を踏み入れた時、リビングの中央に置かれたビリヤード台には、球は置かれていなかった。
本来、球もキューも使用後は手入れをして仕舞っておくもの。分かってるなあと印象に残ったから間違いない。
そしてメルカトルたちは、昼間はソファで紅茶、夜はビリヤード台の向かいにあるミニバーでワインを嗜み、ビリヤードに興じたシーンはない。
翌日は早朝から鵠沼の転落騒動。球はいつ出されたのだろう?
まさか転落場所を見物し、トランプをすり替えて部屋に戻ったメルカトルが、推理の披露または美袋にアピールするために球を出したわけではなかろうが、チマチマ並べているところを想像するとちょっと微笑ましい気分になる。

メルカトル役の水沢林太郎はそういうことしても似合いそうな俳優さんだったね

あの中でいちばん似合うのは須賀健太だけどね
脚立と足場板

ドラマ自体はよかったが、個人的評価が☆3なのは、事件の重要なパーツである脚立と足場板の調達が曖昧だったというのが大きい。
自宅ならいざ知らず、はしご兼用の大きな脚立などどうやって持ち込んだのだろう。
どう言い訳しても誰の目にも触れず部屋に持ち込むことはできないと思うのだが。
それにホテルの部屋(のクローゼット)に脚立なんて、いくら何でも不自然がすぎる。
さらに脚立ほどではないが、足場板も結構な大きさがある。
重量は最も軽いアルミ製なら1mで2kgほどとさほどでもないが、何よりあの部屋では異質すぎる。
最も不可解なのは、脚立をメルカトルに取り上げられた後、どうやって足場板を入手したのかということ。
足場板自体はホテルの中庭から失敬したものらしいが、まさかそれを持ってエレベーターに乗るわけにもいくまい。
予め脚立が使えなくなる可能性を考えて、足場板をくすねていたとは思えないし、メルカトルたちを招いてからはそんな暇も隙もない筈だが。
普通は女性のクローゼットをチェックするとは思わないし、そうさせないための上手い言い訳もできる。現に脚立はクローゼットを開ければすぐ見えるところにあった。それなら足場板も(念のため或いはよりよい方を選択するため持ち込んでいたと仮定して)脚立と重ねて置くのではないか。
事件後、美袋が「目端の利く君が、あんな大きな足場板を見逃すなんてね」とメルカトルを疑っていたが、わざわざ追及するまでもなくメルカトルはわざと見逃した。
というよりドラマの都合上、あえて足場板の調達についてはぼかしたのだろう。

クローゼットに脚立があった理由は?

なかったと思うよ

メルカトルが「あ、脚立♪」みたいなノリで借りてた
意味不明な点
“カタセ エノコ”とは?
メルカトルにばかり話しかけ、自分のことは空気扱いの鵠沼に対して、美袋は「どういう結果になっても、この事件は絶対に小説にさせてもらうと決めた。ヒロインの名前は“カタセ エノコ”とでもしてやろうか」と胸の内で毒づいている。
それでも「お疲れ様です」と言われれば考え直してやるところが美袋らしいが、“カタセ エノコ”とは何ぞや?
「エノコ」は犬の子、つまり子犬のことで、「えのころ」とも言う。エノコログサ(狗尾草)は花穂が犬の尾に似ていることから「犬っころ草」が転じたとされる。
犬好きにはピンとこないが、「犬畜生」とバカにしたニュアンスだろうか。

「カタセ」については全く解らない。
「カタス」だとしたら「片隅」もしくは「カタストロフィ(catastrophe)」の略か。
大惨事、破滅を意味する「カタストロフィ」だとしたら、文学や演劇的にはクライマックスで主人公の迎える破滅的な結末を指す場合もあるらしく、本作にはぴったりかもしれないが。
ウィンウィン?
鵠沼が滞在するスイートルームでは、メルカトルと鵠沼が到着から夜半まで様々に語らう。
その中で鵠沼に送られてくるトランプの話になるが、メルカトルは「我々には時間が必要」と言う。
今夜、犯人が失敗すれば明日はクラブ、スペードと送られてくるかもしれず、その間に犯人が考え直す可能性があり、そうなればウィンウィンだと。
最初はサラッと聞き流したが、後から「ウィンウィンって何だ?」とじわじわきた。
メルカトルの真の事情を知ると「諦めたとしても鵠沼の負けにはならない」という彼なりの説得を含んでいたのかもしれないが。
時間が必要な理由も正直よく分からなかった。
いきなり柳

後はメルカトルの推理と種明かし的なエピローグ、という終盤30分を過ぎてから登場した和歌山県警の柳さん。
てっきりキャラの立たない2~3人の警察関係者がわちゃわちゃっと難癖つけるだけかと思っていたのに、細身のダークスーツがよく似合う、目の覚めるようなシュッとした美形。
「主役は遅れて現れる」を地でいくかと思った。
それもその筈、ミュージカル『刀剣乱舞』にもご出演の2.5次元俳優でもいらっしゃる。御年42歳(2026年5月現在)。
非常に姿勢がよいのが印象的で、ご本人のSNSでは美しい和装や剣士姿が見られる。
んまあメイクが映える御仁だこと。
そしてどこか中性的なビジュアルから低めの声で繰り出される「呑気なもんですねえ三文作家さんは」「同室のヘボ探偵はぐっすり眠っていたんでしょ」等々の分かりやすい悪口…!
好きだわ、このキャラ。
今後のミステリーシネマでシリーズ化されるのなら、柳刑事はぜひ主要キャラとして固定していただきたい。
だがしかしひと言、捜査情報をヘボ探偵&三文作家相手にペラペラ喋るのはいかがなものか?

ワタナベエンターテインメントに所属する男性若手俳優集団・D-BOYS、音楽ユニット・D☆DATEのメンバーです

D-BOYSには瀬戸康史、山田裕貴など10名が所属(2026年5月現在)

過去には城田優、志尊淳など多数が在籍

最近記事にした『テミスの求刑』で殺人犯を演じた遠藤雄弥は、結成メンバーでリーダー(2012年脱退)だそう
鵠沼について

始まりの新人賞が佳作とはいえ、21歳でデビュー後も順調に売れ続け、華やかな美女作家としてももてはやされている。
何が不満なの?と凡人は思ってしまうが、本人にしか分からない苦悩や嫉妬があるのは当然。外から見れば十分に結果を出しているメダリストが、金にこだわるのと同じなのだろう。
「人は人、自分は自分」と美袋は言っていたが、そんな簡単に割り切れれば苦労はしない。
ライバルを超える努力をするだけでは足りない時もあるので、蹴落とす策を練りたくなる気持ちも解るが、鵠沼はやりすぎた。

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というか鵠沼が本当に賢い人物であれば、いろいろ天秤にかけてもそんな手段は選ばない筈なのだ。
藤沢1人を殺したところで自分の天下とはならないことくらい、当然、理解できるだろうから。
それに自分を危険に晒しすぎ。
あの悪天候で中止するという判断ができないとは、よほど短気なのか自分に自信があったのか、或いはそれだけ嫉妬に狂っていたのか。
何にせよ頭が悪い女ということは確かなよう。よくあれで作家としてやってこられたもんだ。
無謀な策に溺れた結果が自業自得の転落死。
せいぜいが藤沢の愛犬と相討ちとは、美女作家が残念なことですな。
鵠沼と断片的な類似点がある人は何人か見てきたが、そっくりな知り合いが学生時代にいた。
彼女は本来、成績優秀で多才な人だった。
評判の美少女というわけではないが容姿も整っていた。
だが「人は人、自分は自分」がまったくできない人だった。
というか「私は『人は人、自分は自分』というスタンスなのに、秀でているせいで嫉妬されて足を引っ張られる」と常に周囲に偽りのアピールをしつつ、その「足を引っ張る人」=「彼女が敵視するライバル」の足を実は懸命に引っ張って陥れようとしていた。
相手の手柄を自分の手柄に偽装したり、またそういう「卑しい行為」を「される側」として認知させようと必死だった。
ライバルに固執し、ちょっと洒落にならない策略も含めて嫌がらせを続けている間に、周囲も変わったり入れ替わったり、彼女が気づき始めた時にはもう遅かった。
彼女は自分で努力するということを怠っていたようで、その頃には自身を食いつぶしていた。
朗らかな優等生像の下にせめぎ合っていた、強烈な負けず嫌いと嫉妬は相手の裾も燃やしたが、彼女は自らが蓑を羽織っていることに無頓着で、相手だけが燃えると信じて油を撒き続けた。
圧勝と信じていた学生時代の結果は、彼女にしてみれば惨敗に等しかっただろう。
もちろん人生は長いので、いくらでも巻き返すことはできるし、それなりに落ち着くことも可能だが、あれだけ目立ちたがり屋で名にこだわっていた彼女の噂を耳にすることはなかった。
結婚したらSNSに旧姓も併記するようなタイプだったのに、本名でSNSもやっておらず、連絡先も分からないらしい。
自分としては、勝負?がついたところで彼女と切れたのは、その後の人生のためにもよかったと思っている。
彼女の幸福を願うほどお人好しでもなければ恵まれてもいないが、ただ、彼女を時折にでも思い出す同級生は今となっては自分だけなのかもしれないと、傲慢かもしれないが憐れみさえ感じることもある。
赤と黒

赤は鵠沼、黒は藤沢のイメージカラーだが、タブレットの「2大美女作家」の紹介画像も、メルカトルが鳴らした2つのビリヤードの的球も、常に藤沢=黒が上になっていた。
どう足掻いても鵠沼は藤沢には敵わない、ということだろう。
加えて的球は黒が8、赤は3または7。
ナインボールやエイトボールでは、数字が小さい順からポケットに落とす。ビリヤードのルールに従えば、先に脱落するのは鵠沼なのだ。
まさに人を呪わば穴二つ。黒づくめになってまで隣に部屋をとり、掘った穴に鵠沼は転落した。
また黒い8番は、エイトボールでは勝敗の鍵を握る特別な球となっている。
藤沢はさほど出番は多くなく、登場人物としては重きを置かれていないが、作中の世界線では恋愛小説の旗手として、鵠沼亡き後も存在感を放ち続けるのだろう。
一般に赤の的球は3であることが多いようだが(その場合7は茶色か臙脂色)、8のすぐ下で押さえつけられ、恨み骨髄だったという観点から、ドラマ的には赤は7の方が相応しいと思う。
ちなみに「赤と黒」と言えばスタンダールの長編小説が浮かぶが、内容的に本作とは関係がないよう。

(ヒソヒソ)相方ってビリヤード得意なんだよね?

(ヒソヒソ)結構やりこんでたらしくて、教えてもらったことあるよ

(ヒソヒソ)何かイメージ違わない?

それは言うな
2対1
徹頭徹尾メルカトルは美袋を下に見て、小馬鹿にする言動が多いのだが、鵠沼の部屋に滞在中は、殊にひどかった。
鵠沼を持ち上げるために美袋を引き合いに出し、貶しまくる。
鵠沼も謙遜しながら満更でもなさげで、美袋は眼中にない。美袋だけが雑用を押しつけられて動いていても知らんふり。
美袋自身は割に寛容で、不満たらたらながらもメルカトルに言われるがまま盗聴器を探したり脚立の上で一夜を過ごしたり。
メルカトルにしてみれば、本来の目的のため鵠沼をおだてるのに美袋を使わざるを得なかった…とは到底思えず、「こいつら性格悪っ!」とムカムカ。
この2対1の図式はもはやイジメに近いものがあり、またそれらのシーンがドラマの結構な時間を占めていたことも相まって、非常に不愉快だった。
友情は届かない

「あのぅ、一応、ご友人、なんですよね?」と確認したくなるほど美袋に対してひどい態度のメルカトルだが、いわゆるツンデレってやつか?という描写がちょいちょい出てくる。
序盤に美袋が事務所を訪れた際、外から呼びかけると待ちわびていたかのように速攻で2階の窓から手が突き出てくる。
「(小説を)読んでくれた?」と訊かれるとサムズアップ。そして早く上がれと手招き。
その割には美袋のオリジナル小説原稿は屑籠に放り込んである。これ見よがしに、汚れないよう紙屑のいちばん上に。
「君に才能がないことくらい、口を酸っぱくして言っているじゃないか」…ということは?自分の専属助手になれということですかそうですか。
「どこぞの三流ミステリー作家とは大違い」だの「(賞を)1つも得ていないのに堂々としたもの」だのと美袋を腐しておきながら、鵠沼が「自分が書いているのはラブロマンスではなくビルドゥングスロマン」と戯言を抜かした時には、鵠沼に解説を求めず美袋を振り返っている。

「ビルドゥングスロマン」とは「教養小説」と訳され自己形成小説、成長小説とも言われます

美袋によると「主人公の心の成長や人間形成の過程を描くジャンル」だそう
さらにホテルで美袋が寝ずの番をしている間も、やらせたメルカトルはベッドで高いびきかと思いきや起きている。
美袋が柳刑事に疑われた時も兵法を持ち出して隣室に誘導していたが、あれも美袋に助け舟を出したとは考えられないだろうか。
最もメルカトルの思いを感じたのはエピローグ。
冒頭で美袋が独白していたように「奇妙な事実をそのまま書いた」面白くもない小説を珍しく褒めたのは、皮肉に見せかけ友人を騙した罪悪感を忍ばせたのではないか。
或いはオリジナルの小説より自分との事件を書いてほしかったのかもしれない。
帰るよう急かしたのも、美袋には会わせたくない真の依頼者との約束の時間が近づいたから。
ぞんざいに美袋の原稿を屑籠ではなく机に放り投げ、踊るように藤沢の対面へ腰を下ろしたのも、照れ隠しにも見える。
もしそうだとしても、メルカトルのツンデレ友情は美袋には届いていない。
「ひと筋の光が射し込んだ」という台詞とは裏腹に、「憎悪のこもった茫然」とも形容すべき暗い表情で美袋はメルカトルを眺めている。
「暗闇の中の光ではなく、光の中の闇と言うべきどす黒い光が」なんて言わせてしまったメルカトルは、いつか美袋に背中を刺されることになるだろう。
でもメルカトルはあの飄々としたポーカーフェイスで、報われなかった友情を包み、突き放しながらも美袋を自分の元へ来させて拒まないのだろう。

メルカトルに関しては視聴者によって、原作シリーズを読んでいるかによって解釈が変わりそうなキャラではありますが

あたしはのりまきのメル像が好きだな

ホントに美袋にイジワルなメルはやだ
探偵の真意

基本的にメルカトルは、自分もしくは自分と美袋以外はどうでもよいと考えるタイプで、本人も言っているが仕事では「依頼人の安全が第一」。
鵠沼は勘違いしていただろうが、メルカトルが重要視していたのはもちろん鵠沼ではない。
人間としての良心や倫理は残っていると見えて、依頼者を優先するばかりではない心のこもった説得を会話の端々に忍ばせていたが、殺人事件さえ未然に防げるのであれば、鵠沼が死ぬか生きるかは究極的にはどうでもよかったように思える。

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ただ事件を防ぐだけなら、鵠沼から依頼があったにせよ、もっと違うやり方もあった筈だ。
当然、鵠沼が万一ホテルから抜け出すのに成功した場合も考えて備えてあったと思われるが、メルカトルがあのような形で鵠沼の依頼を受けなければ、鵠沼は死ぬことはなかったかもしれない。
だがそうなれば鵠沼はいつまでも藤沢を諦めない。
だからギリギリまで説得を試み警告を続け、その上で成功率の限りなく低い足場板をわざと残し、雷雨到来を待ったのだ。
自ら諦めるか、自ら死ねと。
鵠沼にしてみれば、この結末で逆によかったかもしれない。
彼女は手に入れたものをあまり大切には感じていなかったようだが、地位も名声も失い、作家として致命的とも言えるいい加減な計画を暴かれ、惨めな殺人犯になるよりかは。
まとめ

豊富な会話の伏線と象徴的な小道具で、中身が濃くしっかり楽しめた。
先入観なく謎解きをしながら鑑賞した後で、再度チェックしながら鑑賞するとより楽しめる。
タイトルの「ナイト」のスペルは「knight」となっているが、カナにしたことで「night」とのダブルミーニングも面白い、
だが自分の不勉強かもしれないが明確にされない不可解な点や意味不明な点が多く、何より重要な脚立や足場板のモヤモヤが残り、手放しで高評価にはできなかった。
事務所のドアに書かれた「メルカトル鮎 探偵事務所」というゴールドの文字はメイリオのように見えたが、フォント好きとしてはもっとクラシカルな書体にしてほしかった。
メイリオ自体はよい書体だけれど、ドラマの雰囲気に合っているかというと少々疑問が残る。
それからメルカトルのシルクハットには黙っておくとして、事務所のテーブルに敷かれたテーブルランナー、見切れてたけどあれ、無印良品のランチョンマットだよね?

あの無印のランチョンマット、うちにもあるよね!

あとメルカトルと鵠沼がお茶してるカップはスリーピーのガラスカップ&ソーサーじゃないかな~と
参考:
快活クラブ「ビリヤードの基本ルールは?初心者~上級者までわかりやすく解説」
バグース「ビリヤードの基礎知識」ほか
株式会社トランプ「トランプの雑学」
m HOLD’EM「【ポーカー初心者向け】「スート」とは?意味や戦略での活用法を解説」
ぼうぶら「第12回スートの意味:剣・聖杯・貨幣・棍棒の系譜」
Blue Talk「脚立選びは高さと種類選びがポイント|現場に適した脚立の選び方を解説」
株式会社 日本機材「アルミ足場板/軽量鋼製足場板」PDF
Wikipedia
&相方

