フラットコーテッドは、実はレトリーバー種の中でいちばん好きな犬種でした(あずの手前、一応過去形)。
もちろん犬種に関わらず、「犬」という生き物を愛していますし、フラットコーテッドの他にも好きな犬種はあります。ちなみに猫も好きです。
ただ、将来自分で飼う時に、好きに犬種が選べるのであれば、フラットコーテッドのメスがいいという強い希望はありました。
わんこランド(仮)に魅せられて
ずいぶん前に、あるふれあい動物園に遊びに行った時のことです。
そこはポニー・ヤギ・ヒツジなど牧場系(?)の動物や、ウサギ・モルモット・カメなどの小動物が飼育されていました。
それぞれの柵の中に入って、動物たちとふれあうこともでき、特に親子連れには人気のスポットです。
私(=のりまき)の一番のお目当ては、わんこランド(仮)。
様々な犬種の犬たちが勢ぞろいする、犬好きにとってはまさにドリーミングスペース!笑
親子連れでにぎわう休日に行くと、何かと楽しめないので、その時は混んでいない平日を狙って友人と行きました。
思った通り、入園した当初は、園内には私と友人のみ。
友人は犬以外の動物も見学していましたが、私は一目散にわんこランド(仮)へ。笑
訪れるのは初めてだったので、柵を勝手に開けて入ってよいものかと、入り口近くでウロウロしていると、柵の中にいたドッグトレーナーらしき男性のスタッフさんに声をかけていただきました。
犬たちが出ないように細めに柵を開け、すべり込んだ先には、いるわいるわ。笑
映像でしか見たことのない、または名前しか知らなかった犬種の犬たちが、実際に目の前にいたあの震えるような感激は、今でも憶えています。笑
犬を飼いたくても飼えない、「犬養分が足りない」状態だったのりまきは、犬たちを驚かさないように静かにそっと犬たちに近寄りましたが、その脳内ではベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章、通称『歓喜の歌』が流れていました。笑
いかにも商業施設の一員らしく、犬たちは見知らぬ人間が柵の中に入ってくることには慣れており、ただ言い換えれば、無反応・無関心でした。
中には、こちらには見向きもせず、ひたすら隅で「あーヒマ」と言わんばかりに反復運動をしているジャーマン・シェパードもいました。
ほとんどの犬たちは思い思いの場所でくつろいだりして、新参の客(=のりまき)に、あまり興味は持ってくれませんでした。
最初に寄ってきてくれたのは、スタッフさん曰く「犬との関係があまりうまくいっていない」「人間の方が好き」な、真っ白くて大きなグレート・ピレニーズでした。
喜ぶのりまきに、スタッフさんは「他の犬たちと仲が悪いから、人間に頼るしかなくて、お客に寄って行くんですよ」などと、まるでグレート・ピレニーズを嫌っているかのような言葉をかけてきました。
犬たちの世話をしているのはスタッフさんですし、彼にしか分からない事情もあるのだろうとは思いましたが、「何も客の前で、『他の犬と仲が悪い』だの『仲間外れにされている』だの、『客に愛想はいいけど問題がある犬』だの言わなくてもいいじゃない」と、違和感の混じった怒りを感じました。
当のグレート・ピレニーズは、穏やかで人なつこい印象の子で、なでると嬉しそうにしてくれました。他の犬たちとも、スタッフさんが仰るほど仲が悪いようには見受けられませんでしたが、こちらはただの一見客なので、何とも言えません。
ただ、グレート・ピレニーズと一緒にいるたびに、ネガティブな言葉をかけてくるスタッフさんを見て、「群れのリーダー役である人間に嫌われて、この子は大丈夫なのか」と心配にはなりました。
フラットコーテッド・レトリーバーとの出会い
ひと通り犬たちを見終わり、相手にしてくれる子もしてくれない子もいましたが。笑
先に挙げたグレート・ピレニーズ以外は、あまり相手にはしてくれませんでした。笑
ちなみに他の動物たちを見た後で、わんこランド(仮)にやってきた小型犬好きの友人は、ダックスやコーギーに洟も引っかけられずにショックを受けていましたが、懲りずに追いかけ回していました。笑
そんな友人を見て笑いながら、のりまきは柵内のベンチに座ってひと休み。
そばに掲示してある犬たちの紹介文を読んでいると。
美しい赤茶色のアイリッシュ・セターを引き連れて、これまた美しい漆黒の毛並みの大型犬が、どこからともなく、にこにこしながら近寄ってきました。
他の犬たちを見ている間には、彼らの存在に気づきませんでしたが、のりまきがいた場所とは反対側の木陰にずっといたようです。
黒い犬は、ゴールデン・レトリーバーを少しスリムにして、黒くしたような大きさと体形で、のりまきを見上げて振ってくれるしっぽには、豊かな飾り毛がありました。
顔立ちはゴールデンよりシュッとしており、アイリッシュ・セターに近い印象でした。
さっきまで読んでいた犬たちの紹介を探すと、…あった!
フラットコーテッド・レトリーバー
当時、わんこランド(仮)にはオスとメス2頭のフラットコーテッドがおり、見た目からはどちらなのか区別がつきませんでした。
苦笑交じりに教えてくださったスタッフさんによると、アイリッシュ・セターはオスで、フラットコーテッドに恋しており、どこにでもついて行くのだそうです。笑
実際、アイリッシュ・セターは私にはほぼ無関心で、「愛するフラットコーテッドが行くからついてきた」感満々でした。笑
「じゃあ、お前はメスの〇〇(名前)なんだね?」
彼女が何歳だったか正確には憶えていませんが、シニア手前だったように思います。
のりまきのどこが気に入ったのか、フラットコーテッドは親しげに私を見上げ、足元でくつろいでくれました。
頭をなでると、嬉しそうにしっぽを振ってくれます。
オマケでついてきた(笑)アイリッシュ・セターも、不承不承といった様子でフラットコーテッドのそばに座っています。彼に対しては、私に関心があるわけではないことは分かっていたので、手は出しませんでした。笑
アイリッシュ・セターは、意中のフラットコーテッドが、自分よりも初対面の人間(=のりまき)にかまけているのがご不満らしく、イライラした様子でした。笑
のりまきに対して攻撃的な態度は見せませんでしたが、時折フラットコーテッドに「そんな人間より俺をかまってよ」とばかりにちょっかいを出して、睨まれたり無視されたりして、恨めしそうな顔をしていました。笑
正直言うと、わんこランド(仮)の犬たちが、客である人間に対して、これほど無反応だとは思いませんでした。
というのも、私は子供の頃から、どちらかといえば動物に好かれるタイプだったせいか、「犬は元来愛想のいい生き物である」という認識がありました。
また、わんこランド(仮)とは別のふれあい動物園に行った時には、犬たちはこぞって寄ってきてくれたので、「商業施設の犬たちは、愛想よくするのも仕事だと理解しているのではないか」という思い込みもありました。
そんなのりまきに対して、今回の犬たちのこの愛想の悪さ。笑
少なからぬショックと寂しさ、そして新参者ならではの居心地の悪さを感じていたところへ、降ってわいたように現れた、優しく友好的なフラットコーテッド。
「フラットコーテッド・レトリーバー」という犬種があることを初めて知ると同時に、彼女及びその犬種に、一目ぼれをしてしまったのでした。
わんこランド(仮)の犬たち、大概な態度だな~
平日だったから、中休みのつもりだったのかも
そういや、違う移動動物園では犬たちにえらいたかられてたね?
セント・バーナードがぴったりくっついてくれて、嬉しかった~♡
ハーメルンの犬たち
フラットコーテッド・レトリーバー+お供のアイリッシュ・セターとともに、まったり過ごしていると、後から母娘の親子連れが入ってきました。
娘さんは私服姿でしたが、高校生・大学生以上といったところ。
スタッフさんは、明らかに私たちに対する態度とは違い、親しげな笑顔を浮かべ、大きな声で挨拶をして、彼女たちに話しかけていました。
話の内容から、その親子連れはリピーターらしかったので、スタッフさんの対応は無理からぬこととは思いましたし、それ自体は特に不満にも感じていませんでした。
ところが、です。
親子連れが柵の中に入ってきて、スタッフさんのそばに行った直後、その場にいた数十匹の犬のほとんどが、それまでは広い柵内でばらばらにくつろいでいたのに、急にスタッフ+親子連れの周りに集結し始めたのです。
最初は犬たちがスタッフさんの顔色を読んだのかと思いましたが、どうやらスタッフさんが犬たちに合図をしたようでした。
とにかくわらわらと集まる犬たちに、嬉しそうな悲鳴を上げる親子連れ。
そして、彼らから離れたベンチでショックを受けつつ、それを羨ましそうに見つめるのりまき。
もちろん、新参者の客(=のりまき)たちのことなど、犬たちの眼中にはありません。
友人はと言えば、柵の隅で背を向けて、やっと懐きかけてくれたコーギーに夢中だったため、親子連れが入ってきたことにも気づいていませんでした。笑
そんな中、ずっとのりまきのそばにいたフラットコーテッドも、きっと行ってしまうのだろうと思いましたが、彼女は動こうとしませんでした。
スタッフさんがこちらを見て、フラットコーテッドも来るように、目配せや呼びかけをしていたようですが、彼女は無視しました。
そして「大丈夫よ」と言わんばかりに、優しいまなざしで、のりまきを見上げていました。
勝手も分からず、ひとりぼっちで所在無げにしている転校初日のクラスメイトに、いち早く気づいて気遣ってくれる、よくできた学級委員長のようでした。笑
ちなみに、アイリッシュ・セターもフラットコーテッドにべったりなので、行こうとはしませんでした。笑
今にして思えば、頭数や規模からして、その男性スタッフだけで、わんこランド(仮)の犬たちの面倒を見ていたわけではないのでしょう。
つまりフラットコーテッドたちにとっては、彼は「群れの絶対的なリーダー」ではなく、「世話をしてくれるスタッフの1人」という認識だったのかもしれません。
フラットコーテッドたちの他にも、男性スタッフの合図を無視して行かなかった犬は何頭かいました。
けれど、その時は今後が心配で(グレート・ピレニーズの件があっただけに余計に)、「ボスに逆らうと、お前の立場が悪くなるんじゃないの?」と話しかけると、フラットコーテッドは笑って、はたはたとしっぽを振りました。
美しくて、優しくて、賢くて、モテモテ(アイリッシュ・セターに。笑)。
何て完璧な犬なんだろう。まさにのりまきの理想でした。
本当に嬉しくて、ずっと一緒にいたいと思いながら、彼女の背中に手をあてていました。
そして別れ
犬たちの真ん中で、はしゃいでいる親子連れの声を聞きながら、満ち足りた気持ちでフラットコーテッドをなでていると、一緒に入園した友人が意気消沈した様子でやってきました。
ご執心だったコーギーが、親子連れの方へ行ってしまったとのこと。
「その犬たち、何でまだいるの?」と不思議がられました。笑
閉園時間も迫っており、コーギーにフラれた友人にも促され、帰ることにしました。
しましたが…後ろ髪を引かれる思いでいっぱいでした。
こんな一見客のために、スタッフさんの意思に反したフラットコーテッドは、果たして大丈夫なのだろうか。
できることなら連れて帰って一緒に暮らしたい。
でも、こんなに賢くて友好的な犬なら、きっとどのお客さんにも可愛がられるよね。
そんな思いが交錯していました。
当のフラットコーテッドは、何歳からこの動物園にいるのか、お客が帰ることにも慣れていると思われましたが、柵のギリギリまで来て見送ってくれました。
園の入り口まで、何度か振り返りましたが、黒い塊と赤茶色の塊が寄り添うように、ずっと柵のそばに立っているのが見えました。
彼女にとっても、のりまきと過ごした時間は楽しかったのだろうと、楽しい時間であってほしいと、思いました。
その時に「飼うならフラットコーテッド・レトリーバーのメス」と心に決めたのでした。
また、他の犬たちが、スタッフさんの意を汲んで、私の後からやってきた親子連れのお客さんたちに愛想を振りまくのを間近で見て、「やっぱり自分だけの犬がほしい」とも思いました。
それからずいぶん経ち、犬が飼えるようになってから、まず調べたのは、かつて訪れたふれあい動物園の、フラットコーテッドについてでした。
年数からいって、もうあのフラットコーテッドは亡くなっているだろうとは思いましたが、血縁の子がいないか、もしくは同じブリーダーから引き取れないかと思ったからです。
園内に「子犬を差し上げます」という貼り紙がしてあったことがあり、もしかしたらあのフラットコーテッドの血をひく犬を譲ってもらえる機会もあるかもしれないという一縷の望みも抱いていましたが、「園としては、そのような譲渡はしていない」という返答でした。
貼り紙そのものも、園側は「記憶にない」ということでした。
スタッフも入れ替わっており、歴代の犬の記録もなく、フラットコーテッドについては「そんな犬もいたかもしれない」程度のお話しか聞くことができませんでした。
それ以上は食い下がるわけにもいかず、残念ながら諦めざるを得ませんでした。
園側の内情は分からないので、何とも言えませんが、やはり商業施設の一員としての犬は、オンリーワンではなく、何十頭もいる(いた)うちの1頭でしかないのだなぁと、少し悲しくなりました。
そして保護施設のスタッフさんが仰った「(犬も猫も)施設にいるよりも、家庭で家族に囲まれている方が絶対に幸せです」という言葉を実感しました。
めっちゃ必死だなと思ったら、そういう事情だったんだね
うん…結局、何の役にも立たなかったけど…
あずがもう少し大人になったら、フラットコーテッドのブリーダー探そうか
あ…うーん…レトリーバーの子犬はねぇ…もう1回育てるかと言われると、そのぅ…ごにょごにょ
何か言った?
あずのオッターテイル
本格的に動物を飼う方向で、保護施設を見学したりしていた中、出会ったのが黒いラブラドール・レトリーバーのあずでした。
出会いの顛末は「あず、来たる~黒ラブの子犬がうちに来るまで~」で詳しく書いています。
今だから白状しますが、実はあずを見つけた時、一瞬ですがあの時のフラットコーテッドの顔がよぎり、「うーん…ラブかぁ…」と、ホントに一瞬ですが、そう思ってしまったのでした。
あずの愛らしさと少々の不憫さの前では、そんな思いはすぐに消し飛びました(ということにしておこう)。笑
さらに迎えた後での惨劇の前には、「レトリーバー種がこんなに大変なら、もうラブラドールもフラットコーテッドも、子犬は金輪際飼わない」と固く、固く心に誓いました。笑
けれども、あずが無事に成長して大人になり(精神面はともかく)、愛おしさが増す一方になってくると、「機会があれば、犬か猫をまた迎えたいな」という気持ちになっています。
保護犬やキャリアチェンジ犬ももちろん視野に入れていますが、フラットコーテッドへの未練もまた再燃してきました。
初めての場所で相手にされなかったあの時、そばにいてくれたフラットコーテッドと、今度はオンリーワンの家族になって、一緒に暮らしたい。
それは、あずと出会えた時のように、きっと必然のようにやって来ると思っています。
もしかしたら、あずがラブラドールにしては長毛で、フラットコーテッドほどではないけれど、しっぽに飾り毛風の毛があるのは、のりまきとあずの運命だったのかもしれません。
横から見た時に、胸が張りだした流線形の身体も、胸元にボサボサした毛があるところも、とても似ています。
あずは、今は3歳にして、まだ子犬のようなはしゃぎっぷりですが、そのうちにあの時のフラットコーテッドのように、優しく私を見上げて、穏やかに過ごせる日が来るのでしょう(来てもらわないと困る…)。
その時に出会えるのは、フラットコーテッドなのか、昔飼っていた猫なのか、はたまた全然違う新しい犬or猫なのか。
あずを飼ってから、楽しみがまたひとつ、増えました。
ふーん…あたしと出会う前にそんなことがあったんだ…
すんごい前の話だよ?あずが生まれるずっと前
分かってるよ~
でもレトリーバーの子犬は大変だからさ、あたしでやめといた方がいいと思うよ?(嫉妬)
はいはい♡