秋の風物詩

あずが来てから毎年、秋が深まると少々憂鬱になっていた。正確には秋の散歩が、である。
四季の中では秋がいちばん好きだし、落ち葉がカサカサと風に吹かれて音をたてるのも好き。だが、この道に散らばる落ち葉が問題だった。
落ち葉を興味津々で追いかけ回す小型犬は愛らしいが、うちにいるのはサブレか何かと勘違いしている食欲魔犬。道路をザザザとすべるカラカラの葉っぱを見つけるやいなや飛びついた挙げ句に、止める間もなく口に入れる。
カシュカシュ、モシャモシャという、気持ちのよい乾いた音を立てて咀嚼&「ゴラァァ!出せえぇ!」と、周囲を気にする飼い主の抑え気味の怒声。
少量とはいえ犬にとって毒になる植物かもしれないし、カビや虫がついていないとも限らない。口に手を突っ込むとまあまあ素直に吐き出すが、飲み込むことも多いので気苦労が絶えない。
落ち葉に限らず砂利や草や花びらなど、1年を通して拾い食いをしないようにトレーニングも続けていたが、あまり身につかず半ば諦めていた。
苦労の過程はこちらでも
2025年秋事変
それが、今年はなぜか食べない。
年齢がいって落ち着いた…ようには見えない。
思い当たる節もないが、ヤツの好きそうなきれいで大きな葉っぱがバイキング状態で散らばっていても、飛びついていかずに見上げてくる。
立ち止まるとウキウキとオスワリをしてごほうび待ち。
必ず毎回ごほうびをあげていると慣れるらしいので、立ち止まらずに頭をなでて通り過ぎることも多いが、「ちぇっ今回はダメかぁ」みたいな顔を一瞬して、また楽しげに歩いている。
うまくできたのはたまたまで、その日限りかと思ったが、毎日成功している。
お気に召したゲーム

そこで心当たりをほじくり返してみると、数日前に街路樹の落ち葉が一面に散らばるため、秋は通らない道路を仕方なく通ったことを思い出した。
本人は大好物だらけで「わお!」という顔だったが、「ダメだよ?」と声をかけると素直に見上げ、何やらフムフムと考えている(たぶん何も考えていない)。
試しにテンション高く「落ち葉チャレ~ンジ!」「あずは食べずにこの道を通れるのでしょうか!?」と声をかけて歩き始めると、嬉しそうに見上げたまま、スキップしながらついてきた。
落ち葉に気をとられてチラッと視線をやるたびに「おっ!?」「ここで脱落か!?」と合いの手を入れると、口を開けてかぶりつこうと下げかけた頭をくいっと上げる。「おぉ~すごい!」と褒められて得意満面。
そこそこ長い道を、ついに一度も落ち葉を食べることなく、それどころかリードをぐいっと引っ張ることもなく、歩ききった。
ゴール地点で「ゴォォール!」と言うと、ごほうびの気配を感じたのか、いそいそとオスワリ。
鼻高々の飼い主
落ち葉を見つけると見上げるようになったのは、その日以来の気がするので、あのちょっとしたゲーム(?)がよほど楽しかったとみえる。
やった!落ち葉チャレンジ大成功!
ついに、ついに苦労が報われる日が来ましたよ!
この勢いで拾い食いトレーニングもうまくいくかも!と、落ち葉をまったく食べなくなったあずの横で皮算用をしてホクホクしていた。
「いやぁ~やっぱ賢い犬種だから、ちゃんとやるとすぐ覚えるのかなぁ~」などと相方相手に散々自慢した後で「あ、お昼の散歩もうまくいってる?」と昼散歩に単独で行く相方に、確認のつもりで訊いてみた。
すると「いや…昼はあんまり」と返ってきた。
そしてがっかり

みんなで散歩する夜は成功率100%だし、落ち葉を認識しただけで見上げるようになっている。お昼は視界良好で気が散るにしても、そんなに差が出るかなぁ…。
相方はあまりゲーム感覚でトレーニングをしたり、テンション高く褒めたりしないので、それも一因かもしれない。…と考えていたら。
「何だったら、今日も泥つきの干し草を食って『出せ!』やられたし、落ち葉もノータイムで食いかけて、叱られて恨めしそうな顔してたよ」と言われてずっこけた。
落ち葉チャレンジ…全然、成功してないじゃん。普通に食ってんじゃん。
人を見て反応を変えるのは賢い証拠かもしれないが、何だかぬか喜びさせられていたようで萎える。つまらなそうな顔をしていたら、相方がひと言。
「あいつが行儀いいのは、のりまきが一緒の時だけよ?」
「俺のことは全然見上げないよ?」
………。
……何それちょっと嬉しい♥


