「スーパーエルニーニョが発生…」「そのわりに涼しいんだが!?」「まさか今年は待望の冷夏か!?」と日本全国がざわめいているのをよそに、次々と列島に酷暑がデリバリーされ始めた梅雨明け。
一気に寝苦しくなった夏の夜の夢の中で、私は高橋一生に叱られていた。
高橋一生(たかはし いっせい)とは、言わずと知れた著名な俳優である。
最近の主演ヒット作は『岸部露伴は動かない』シリーズかな。芸歴も長く、映画、テレビドラマ、舞台や吹き替えなど多数の出演がある。バラエティ番組でもよく見かける。
個人的には、2021年1月から3月にかけて放送された、TBS系「日曜劇場」枠の『天国と地獄〜サイコな2人〜』、綾瀬はるかと入れ替わった際の演技が印象に残っている。
顔も声も高橋一生なのに、綾瀬はるかに見えてくる不思議。凄かった。
友人の俳優・松尾諭(まつお さとる)との恋人のような友情エピソードを聞いてからは、失礼ながら勝手にこのまま独身かと思っていたが、『岸部露伴は動かない』で共演した飯豊まりえと2024年に結婚してしまった。
スキャンダルが報じられた時点ではそういう仲ではなかったのに、互いに意識し始めて、あれよあれよという間に結婚までいったとのこと。
私は秘かに「嘘から出た実(まこと)婚」と呼び、記事を出した雑誌社をちょっぴり恨んでいる。

さて、現実では縁ができるどころか生で見ることも叶わないであろうその高橋一生に、私は叱られているのである。
ちなみに、夢の中の登場人物である「私A」とは別に、夢を俯瞰している「私B」が存在している。私Bは現実の現在の私の意識であり、「おいおい何のご褒美だよ」と歓喜しながら2人の前後をくるくると回るように見つめているという図式である。
私Aが絨毯を踏む靴の感触や、木の手すりのツルッとした手触りなどは、私Bも感じることができる。
私Aは大学院生で、高橋一生とは同じ大学に在籍する友人のようだ。
一生は年齢が1歳下または浪人したかで学年は1つ下、つまり大学4回生で立場上は後輩にあたるが、小中学校以前からの友人らしく、わりと上からのタメ口で接してくる。
…おぉ、夢なのに設定が細かいな。
夢をみている張本人のくせに私Bは感心した。
夢は院生の私Aが大学の付属図書館に向かっているところから始まる。
今しがた終了した講義で出された、来週締め切りの課題に必要な資料を探すのが目的だった。
図書館の貸し出し期限は2週間。他の人に先に借りられてしまうと間に合わなくなるため、かなり急いでいた。
資料の中には特殊なものも含まれており、書架には並んでいない可能性があった。書庫に入るための手続きなども含め、見かけた職員に声をかけて説明したが、なかなか話が進まない。
その職員は中高年の男性で、グレイヘアをきれいに撫でつけ、温厚で仕事のできそうな印象だったが、丁寧に聞いてはくれるものの、どうも専門外のようでこちらの事情や意図が伝わらない。
分かりそうな他の職員を呼ぶでもなく、質問を返されるばかりで一向に進展しないので、焦りと苛立ちが湧きあがった。
そこへ「あら(私A)さんじゃない」と、通りかかった職員が声をかけてきた。
30代前半か半ば辺り、丸く小さな顔に笑っているような細い目、こざっぱりとしたショートヘアが親しみやすい感じの小柄な女性。
私Bには「どこかで会ったような気もするが、おそらく初対面」であるのに対して、私Aは顔見知りであるらしい。挨拶をしながら「助かった」と言いたげに、それまで険しくなりかけるのを懸命に取り繕っていた表情が、あからさまにホッと緩んでいる。
説明半分、質問半分で話す男性職員を軽くいなし、彼女は「あとはこちらで引きとります」とにこやかに笑って歩き始めた。その後ろにつき、私Aも歩き始めた。
私Aとしては、該当の資料についてサクッと話を通し、さっさと書架と書庫にあたるつもりでいた。緩やかにカーブした階段を上りながらかいつまんで事情を説明し、当然、女性職員にも心得てもらえたものと安堵していた。
だが彼女は該当資料の書架に向かいつつも「院生になったのだから、せっかくだし改めて案内して差し上げますかね」と言い出した。
…いや、急いでるって言ったよね!?
そんなヒマ、今はないんだけど!? 何で!?
ぎょっとしている私Aにはお構いなしに、女性職員は「あ、これは知ってるか」などと言いながら、館内ツアーを始めてしまった。
職員直々に案内してもらいながら、専門の話や裏話などを聞くことができるなんて、一介の学生には過ぎた待遇である上、普段であれば楽しくも非常にありがたい状況だが、今は早い者勝ちの資料争奪戦の真っ最中。
だがせっかくの彼女の好意を無下にもできず、私Aは愛想笑いをしながら半ば上の空で話を聞いていた。
目当ての書架が近づき、首をのばすといちばん借りたかった本がまだ数冊、並んでいるのが見えた。
とりあえず、あれとあれを押さえられれば何とかなるから、あとはツアーが終わってからゆっくり探せばいいか。
素通りされるようなら、話の腰を折って悪いがちょっと待ってもらって抜き出しておこう。私Aは勇気を出す心づもりをして口から短い息を吐いた。

資料まであと数歩というところ。
大きめに息を吸った瞬間に、後ろから「何で黙ってるの」と、落ち着いた野太い声がした。
振り返らずとも声の主は判る。高橋一生だ。
一生は近寄り、あのいい声で私Aを叱ってきた。
一言一句まではおぼえていないが、「必要なことは相手がどうあれ、きちんと説明して優先させてもらうべきでしょ」ということらしかった。
前髪はおなじみの正面でふわっと分けて少し立ち上がらせるスタイルだが、眉と耳をすっきり出した短髪。頬やあご周りも僅かにふっくらしてシワはない。
私Bの見慣れた一生よりずいぶん若く見える。
大学生なら相応の見た目だが、自分の補正能力に驚くとともに感心した。
服装は白っぽいTシャツに黒いバンドカラーのシャツを羽織り、ボタンを半分ほど留めていた。ボトムは濃紺のジーンズ、靴は黒い革のごつい編み上げショートブーツだったように思う。
敷かれたウィルトン織りの絨毯、左手に並ぶ窓から見える明るい色の煉瓦壁と相まって、雰囲気は中世の教会のよう。
正方形に近い窓からは、柔らかい光が一生の片頬に射し込み、私Bにとってはため息が出るほど美しくも尊い光景だったが、私Aにとってはそうでもないらしい。
「いやまあそらそうだけど…」という心の声が丸わかりの嫌な顔をしている。
さらに一生は「お前は相手の顔色を見すぎる」と。
き、きたあぁぁぁ「お前」呼び!!!
ちょっと聞きました!? あの一生がおおおおお前ですってよ!!!
私は同級生自体の数は少ないものの、幼稚園から高校まで一緒(中には大学まで)の同級生が当たり前に多い環境で育ったせいか、一般にいう幼なじみ的な友人がわりに多かった。
男子の幼なじみたちは、幼い頃は圧倒的に下の名前にちゃんづけで呼ぶ子が多かったが、年齢がいくに従い呼びかける時はちゃんづけでない愛称、会話する時は「お前」呼びするようになった。
一生のように少し上から説教されたこともある。
男尊女卑的に下に見ているというよりは、当時の周囲の男子の多くには「女は男が守るもの」という感覚が普通に身についており、危なそうなことや力仕事は当たり前に率先してやってくれるし、敵や危険からも庇ってくれたりもした。
呼び方は身内意識の表れでもあったようで、呼ばれる側の私も、さして親しくもない単なる同級生から愛称や「お前」呼びをされると内心では面白くなかったし、周囲も違和感がある様子だった。
もちろん幼なじみに「お前」呼びをされても、いちいちときめいたりはしなかったが、今回は私Bにとっては夢の設定上の幼なじみだと解っていても、流石に一生だと平静ではいられない。
だが残念ながら私Aには、一生といえども気の置けない幼なじみの1人なので、「まーた説教かよ」「めんどくさいのと会っちゃったなあ」と、バチの当たりそうなことを考えているらしい。
仏頂面で今にも白目を剥きそうな私Aと、胸の前で両手を組み歓喜に打ち震えながら見下ろす私B。
私Bの存在は感知していない一生は、ぶすくれた私Aに「性格だから難しいんだろうけど、遠慮ばかりしてないで伝える努力をしないと、これからも損することになるぞ」「もう少しだけ勇気を出して、頑張ってみないか」などと言いながら、つかつかと近寄り、書架の上方から私Aの目当ての本を数冊、抜き出した。
「それがお前の処世術なのは、解ってるけどさ」と、一生はハイ、と私Aに本を渡した。
一生は片手で持っていたが、私Aは両手で受けとった。
表紙、裏表紙ともしっかりと硬く厚みがあり、ページ数も多いそれらの本は、予想していたよりもずっしりと重く、慌てて持ち方を変えるのを待って、一生は手を離した。
そして「じゃあね」と少し優しくなった声音で言うと、ちょっと笑って踵を返した。
その背中に「あんたはどうするの?」と慌てて私Aが声をかけると、一生は振り向かずに右腕を上げ、肩の横で手のひらを軽く振ってみせた。
「俺はお前の後でいいわ。お前ならすぐだろ?」
き…、きぃやあぁぁぁぁぁぁ!!!
いや待って!? ちょっとカッコよすぎない!?
今にもキュン死しそうなんですが!?
少し口を尖らせて一生を見送った私Aが、もう一度この書架を検めたら急いで書庫もチェックして課題に取りかからないと、と目まぐるしく考えているのが分かった。
譲ってくれた一生のため、早く資料を渡したいがためなのは明白で、その義理堅さを私Bは微笑ましい気持ちで眺めていた。

夢はそこで終わり。
そばにいた筈の女性職員が存在ごと忘れられていたり、院生と学生が同じ講義を受講することはなかったり、という不自然さはまあ、所詮は夢ということで。
目がさめても現実とは思えず(元々が夢だけど)、しばらくは「マジかぁ…」と両手でケットを握りしめていた。
最初はただただ高橋一生が幼なじみとして夢に出てきたこと自体に感動していたが、正気に戻ってくると彼の言葉がずしりとのしかかってきた。
私は内弁慶というのか、人見知りで外と内との落差がかなり激しい。
本来は内気な性格でもなく、口下手というわけでもない。
絶対に嫌われない、引かれないと確信したごくごく少数の人に対しては饒舌で、思ったことも口が悪いほどにはっきり言うが、それ以外の大多数の人に対しては警戒心が異常に強い。
外ではひたすらに縮こまって、存在感を消している。
一生に言われたことは、本当にごもっとも。
自分でも明確に感じていたし、自分の生きにくさの最大の理由なのだと理解している。
だが私の場合は、悩む時期はもう過ぎた。
自分に過度のストレスを与えてまで矯正する必要もなければ、自分に合わない世界を強制する必要も強制される謂れもないと割り切り、外界との接触は最小限にして、自分にとっての快適さを保つようにしている。
ただ夢とはいえ、かつての幼なじみのように案じて苦言を呈してくれる他人がいたこと、それが高橋一生だったことは嬉しかった。
少し背中を押してもらったようでもあり、なじめない外界でも存在していいのだと許された気もする。
いやあ、それにしても、もう二度とみられないだろうな。あんな至福の夢は。
ちなみに高橋一生が斎藤工(さいとう たくみ)、水上恒司(みずかみ こうし)とともに主演を務めるPrime Originalドラマシリーズ『犯罪者』が7月17日から始まる。
原作は太田愛の『犯罪者』。
登場人物の鑓水七雄(やりみず ななお)は斎藤工が演じるようで、ずいぶん前に読んだので曖昧になっているかもしれないが、自分の持つキャライメージとかなり違う配役に仕上がりが楽しみ。
斎藤工も好きな役者のお一人なので、高橋一生との共演はまさに一石二鳥。可能であれば夢にも出演してもらえれば嬉しいが、こればかりは自力では何ともならない。
もちろん一生も、遠慮なく再出演してもらっていいんだからね?

のりまきって…お気楽というか平和というか…幸せそうで何より?

ええまあ…「悩みなんかなさそうだよね」とはよく言われましたとも

好きな俳優も多いみたいだけど、誰がいちばん好きなの?

あえて「いちばんは誰それ」って言い切らないようにしてるんだけど…やっぱり本田博太郎かな
小さい頃から大好きだったんだよね💛

これだけキャーキャー騒いどいて高橋一生じゃないんかい…

