フォン・ヴィレブランド病とは
「フォン・ウィルブランド病」「VWD」とも言われます。
出血すると血が止まりにくくなる遺伝性の血液疾患です。同様の病気に「血友病」があります。
血液中の「フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand 因子:VWF)」というタンパク質の、量や働きの異常によって引き起こされ、大きく3つのタイプ(病型)に分けられます。
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、ドーベルマン・ピンシャー、スコティッシュ・テリアの発症率が高いことで知られています。
止血の仕組み
- 血管に傷がつき、血管の壁からコラーゲンが露出する
- 一次止血(血小板血栓)
「血小板」が傷口に集まり、フォン・ヴィレブランド因子を仲介してコラーゲンと結合し、血栓を作って傷をふさぐ。
この段階では、もろくて不安定な状態。 - 二次止血(フィブリン血栓)
血液中の、凝固因子と呼ばれる一群のタンパク質により、フィブリンが作られる。
最終的にフィブリンの網の膜が血小板血栓を覆い、硬くて丈夫な血栓を形成する。
タイプ(病型)
- タイプ1
フォン・ヴィレブランド因子の量が少ない(量的減少)
重症は少ない - タイプ2
フォン・ヴィレブランド因子の働きに異常がある(質的異常)
重症は少ない - タイプ3
フォン・ヴィレブランド因子がまったくない
最も出血が起こりやすく重症
ヒトの場合はタイプ1が最も多く75%を占めます。また男女比は44:56ですが、イヌのデータは調べた限りではありませんでした。
症状
出血が止まりにくくなるほか、以下のような症状が見られます。
・皮膚などに外傷を受けた際の過度な出血
・鼻や歯茎など粘膜からの出血
・消化管からの出血、血尿
・皮下出血
タイプ1・タイプ2は無症状であることがほとんどですが、抜歯や出産、手術の際に異常出血を起こし、死に至ることがあります。
治療法
根治する治療法はありません。
過剰出血が起こった際は輸血により代用血液を投与します。
またホルモン剤である酢酸デスモプレシンを投与し、血管内の細胞に蓄えられているフォン・ヴィレブランド因子を一時的に血液中に放出させる治療が行われます。
タイプ1、タイプ2には有効ですが、タイプ3は完全に因子が損失しているため、効果がありません。
予防法
予防法はありません。
遺伝性の疾患なので、繁殖犬の遺伝子検査を行い、選択的な繁殖で発症する仔犬が生まれないように管理します。
発症率が高い犬種については、外傷や手術に備えて、動物病院で相談の上、あらかじめ遺伝子検査や止血時間についての検査などを行っておくことが推奨されます。
オランダのユトレヒト大学では、「フォン・ヴィレブランド病」の遺伝子検査ができます。
参考:
みんなのどうぶつ病気大百科(アニコム損害保険株式会社)「フォンビルブランド病(von Willebrand,s disease) <犬>」
武田薬品工業株式会社「フォン・ヴィレブランド病と治療」
一般社団法人日本血液製剤協会「血が止まる仕組み」
一般社団法人日本血液製剤協会「止血」
サノフィ株式会社「血友病とは 図解、血液の役割と止血のしくみ」
KMバイオロジクス株式会社「フォン・ヴィレブランド病について」
公益財団法人エイズ予防財団「血液凝固異常症全国調査」令和4年度報告書
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ほか