シリーズ化した「犬に与えてはいけない食べ物」。今回は「乳製品」です。
ほとんどの犬は乳製品が大好きです。
でも無頓着に与えてよいかというと…ちょっと待って!
私たち人間も、日頃から何げなく口にして、愛犬にも与えている乳製品について、掘り下げていきます。
牛乳
基本的に、犬に牛乳を与えてはいけません。特に成犬にはNGです。
牛乳に含まれる「乳糖」を分解できず、下痢や嘔吐を引き起こす可能性があるからです。
また牛乳アレルギーや肥満の点から見ても、あまりお勧めできる食品ではありません。
乳糖不耐性のメカニズム
乳糖不耐性のメカニズムについて、ざっくりご説明します。
人間用の牛乳には、乳糖(ラクトース)という二糖類が含まれています。
乳糖は2つの単糖類、「ガラクトース」と「グルコース」から構成されています。
「グルコース」は「ブドウ糖」とも呼ばれています。
乳糖を分解するためには、「ラクターゼ」という分解酵素が必要です。
人間は乳児期に、成長するために多量の「ガラクトース」を必要とします。
理由は解明されていませんが、人間の母乳は哺乳類中、最も「ガラクトース」含有量が多いのだそうです。
母乳ではなく、食べ物から栄養が摂れるようになる離乳期以降は、体内の「ラクターゼ」は急速に活性を失い、乳糖を消化する能力を失います。
そのため、「ラクターゼ」活性の低い(=乳糖を分解する能力の低い)人が牛乳を飲むと、乳糖が分解されないまま腸まで達し、腸内細菌によって一部が分解されます。
その分解されてできた乳酸・酢酸・ギ酸などの有機酸が、腸壁を刺激して腹痛を起こします。
また分解されなかった乳糖の濃度を下げるため水分が引き寄せられ、下痢を誘発します。
牛乳を飲むとお腹を壊すのは、発達過程においては自然な流れで、「乳糖不耐性(または乳糖不耐症)」=「ラクターゼ活性非持続」と呼ばれます。
世界全体で見ると、約75%が成人になると乳糖を分解できなくなります。
西洋人と比較すると、アジア人・アフリカ人は、この「乳糖不耐性」の割合が高いそうです。
ただ日本人の中にも、牛乳を飲んでもお腹を壊さない「ラクターゼ活性持続」の人もいます。
この成長過程における乳糖消化吸収の不良は、人間を含む全哺乳類に共通しています。もちろん犬も例外ではありません。
ほとんどの哺乳類は、母親から離れて、自分で食料を得られるほどに成長すると、乳糖を消化する能力を失うのです。
「乳糖不耐性(または乳糖不耐症)」であっても、ある程度までの量であれば、牛乳を飲んでも特に問題はありません。
牛乳を飲み続けることにより、飲めるようになるケースもあります。
日本人であれば、一般的に250~500mlを一度に飲んでも大丈夫であるとされています。
ただ少量でも「乳糖不耐性(または乳糖不耐症)」と同様の症状が出てしまう人も少なくなく、原因はよく分かっていません。
ちなみに「低脂肪乳」は「牛乳」から「脂肪分」だけを取り除いたものだから、乳糖(ラクトース)は含まれたままだよ!
「低脂肪乳ならヘルシーだからOK」ってわけじゃないからご注意!
乳糖(ラクトース)が分解された牛乳も市販されてます
犬に牛乳を与えるのはNG
「犬の身体は乳糖を分解できない」とする獣医師の記述も目にしましたが、母犬の母乳にも乳糖は含まれていますので、正しくは「成犬になると乳糖を分解できなくなる犬が多い」であると思われます。
また「捨てられていた子犬を牛乳で育てたけれど大丈夫だった」という、犬飼いの方の体験談も拝見しましたが、上記のメカニズムによれば「子犬は乳糖を消化吸収できる」ので、牛乳を与えても問題はなかったのではないかと考えられます。
中には人間と同じように、成犬になっても乳糖を分解できる「ラクターゼ活性持続」タイプの犬もいます。
そういう犬は、牛乳を飲んでもお腹を壊すことはありません。
All About「犬に牛乳・生クリームを与えても大丈夫?」(獣医師が執筆協力)によると、犬の間食として取り入れる場合、1日に与えてよい量の目安は、体重5kgで大さじ2/3杯・20kgで大さじ2杯とされていました。
また抗生物質を服用している時に牛乳を飲ませると、効果が弱まる可能性があるそうです。
牛乳アレルギー(乳製品アレルギー)
牛乳に含まれる、タンパク質に対するアレルギー反応です。
食物アレルギーとして、人間では鶏卵に次いで2番目に多いアレルギーです。
「牛乳アレルギー」は「乳糖不耐性(または乳糖不耐症)」とは異なります。
人間の牛乳アレルギーによる症状は以下の通りです。
アナフィラキシーが約1%生じ、命に関わる場合もあります。
皮膚症状 5-90% |
発疹・蕁麻疹 |
胃腸症状 32-60% |
嘔吐・下痢・便秘・鼻炎・胃痛・胃食道逆流症・逆流性食道炎 |
呼吸器症状 |
呼吸困難 |
加熱処理によって、タンパク質を変性させれば、アレルギー症状が出にくくなるとする説もあります。
牛乳アレルギーを持つ人間の子供の75%は、加熱した牛乳やチーズなど、熱で調理した牛乳に耐えることができ、これを摂取しすべての牛乳に耐性を獲得する可能性が16倍高かったというデータがあります。
ただし、牛乳アレルギーの多くは、牛乳タンパクの中の「カゼイン」が原因であり、「カゼイン」は耐熱性があるため、加熱してもタンパク質の構造はほとんど変化せず、アレルギーの起こしやすさは変わらないとする意見もあります。
人間であれば、期せずして牛乳を口にする機会がありますので、神経質にならざるを得ないでしょう。
しかし犬の場合は、摂取するものを飼い主が完全にコントロールすることができます。
個人的には、アレルギーのリスクを冒してまで与える必要のある食品とは考えられません。
牛肉アレルギーのある愛犬には、牛乳も避けた方が無難です。
昔飼ってた柴犬系の子には、知らなかったからたまに牛乳あげてたな…水の器にほんの少し入れてやる程度だったから、お腹を壊した記憶はないんだけど
牛乳を飲めるって分かってる子なら与えてもいいかもしれないけど、分からないなら無理に与える必要はないかな
あたし牛がダメだし、お腹弱いから、たぶんアウトだと思うよ…
犬用のミルク(ヤギミルク)
犬猫用のミルクとして市販されているものに「ヤギミルク」または「ヤギミルクを主成分とした」商品があります。
ヤギミルクはアレルギーが起こりにくく、消化吸収にも優れているとされ、牛乳の代用品として注目されています。
人間の赤ちゃん用の粉ミルクとしての需要もあります。
犬の母乳に成分が似ていることからも、犬猫用をはじめ小動物用のミルクとして推奨されています。
ヤギミルクの特徴として
- 乳糖(ラクトース)は牛乳と比べ約10%少ない程度だが、乳糖不耐性症状が起こりにくい
- 牛乳アレルギーの原因物質αs1-カゼインが、牛乳と比べ約10~11%と非常に少なく、アレルギーを起こしにくい
- 脂肪球が均一なうえ牛乳の1/6と小さく、消化吸収に優れている
- 鉄分の吸収率を上げるアラキドン酸が多く含まれる
- 牛乳の約120%ものカルシウムが含まれる
- ヤギは雑草・木の葉や樹皮・低木等も食べるので、乳に含まれる成分も豊富で多様
- 母乳と同レベルのタウリンが含まれる
オランダ産の粉末状にしたヤギミルクがメジャーです。
アメリカ産・オーストラリア産の商品もあります。
幼犬や老犬、病中病後の栄養補助として向いています。
乾燥させた粉末状なので賞味期限も長く、使いやすいというメリットがあります。
パウダーのままフードにふりかけてトッピングにしたり、お湯にとかしてミルクとして飲ませたりと、手軽に活用できます。
市販されているヤギミルクと粉乳(牛)の成分は以下の通りです。
いずれも粉末タイプです。
全粉乳 | 脱脂粉乳 | オトナのヤギミルク | C&R ゴートミルク | |
カロリー/kcal | 500.0 | 359.0 | 356.0 | 510.0 |
炭水化物/g | 39.3 | 53.3 | 49.5 | 37.4 |
脂肪/g | 26.2 | 1.0 | 1.5 | 27.5 |
タンパク質/g | 25.5 | 34.0 | 36.0 | 26.1 |
ナトリウム/mg | 430.0 | 570.0 | 300.0 | |
カリウム/mg | 1,800.0 | 1,800.0 | 2,000.0 | 1,600.0 |
カルシウム/mg | 890.0 | 1,100.0 | 1,300.0 | 1,100.0 |
マグネシウム/mg | 92.0 | 110.0 | 110.0 | |
リン/mg | 730.0 | 1,000.0 | 810.0 | |
鉄/mg | 0.4 | 0.5 | 0.2 | |
コレステロール/mg | 93.0 | 25.0 |
100gあたりの成分
文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
オトナのヤギミルク「ミルク本舗」(オランダ産)
C&R ゴートミルク「犬猫自然食品専門店 エンジェルズハート」(オーストラリア産)
低脂肪のヤギミルク(脱脂粉乳)も市販されています。
脂肪分だけを取り除き、栄養素は残されているため、肥満気味の愛犬にも与えることができます。
アメリカでは「ゴートミルク」と呼ばれ、手作り石けんの材料としても使われています
取り寄せて石けんに入れてみたけど、特にゴートミルクならではのよさは感じなかったかな…普通のミルクパウダーでいいやってなった
当時ゴートミルクは珍しくて高価だったし…
試しにお湯にとかして飲んでみたけど、草っぽいというか…のりまきの口には合わなかった…
無理やり一緒に飲まされた相方の口にも合わなかった…
何か牛乳に雑草入れて煮だしたみたいな味だった(個人の感想です)
参考:
山梨医科大学名誉教授 佐藤章夫『乳糖分解酵素(ラクターゼ)活性持続症』
食物アレルギー研究会『食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017』「牛乳アレルギー」
日本先天代謝異常学会『診療ガイドライン-ガラクトース血症』
広島大学『ガラクトース血症』
中外医学社『栄養素の代謝と必要量』「糖質(炭水化物)」
内科学 第10版『先天性糖代謝異常症』
北畜会報 田中桂一・佐藤響太「ヤギ乳はヒトにやさしい-ヤギ乳と牛乳の比較-」
NPO法人 チーズプロフェッショナル協会『乳科学 マルド博士のミルク語り』「乳糖耐性」
アナフィラキシーってなあに.jp『原因別アナフィラキシー|食物アレルギー』「牛乳・乳製品」
All About「犬に牛乳・生クリームを与えても大丈夫?」
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